異能者たちの苦悩 | 第四章 ヒポクラテスの誓い
ネームレス

第114話 日常

 ここ一週間は校長と同様に教育委員会もバタバタしていた。  九久津は退院まで、もう少しかかるらしくて、あれから一度も会ってない。  寄白さんや校長さえも会えてないと言っていた。  面会謝絶らしいが、それは怪我が重いとかではなく、当局の聞き取り調査が入ってるからだ。  校長は――どうして独りで戦いにいくの? と九久津がなぜ独りでバシリスクと戦にいったのかがまったくわからないらしい。  でも俺には理解できた、どうしても独りでやりたかった九久津の気持ちが。  校長いわく――そんなときこそ、みんなで力を合わせて戦えばいいでしょ? ってことだ、そこは男女の考えの違いっぽい。  ただ安全面を考えれば校長の意見が絶対に正しい。  俺の考えとして――九久津のアニキだって、九久津と同じ立場なら同じことをすると思います。って言ったら校長は百八十度考えを変えた。  校長は九久津のアニキに弱い。  そう言った俺はなんか恥ずかしい気持ちになった……。  寄白さんも「シシャ」を失ってから、体調不良らしく少し辛そうだった。  原因は「真野絵音未」こと「死者」が消えて、負力の受け皿がなくなったからだ。  けど、ここ数日は持ち直してきたような気がする。  それにバシリスクが来た同じ時間帯に、ブラックアウトした人体模型と戦ってたなんて知らなかったし。  寄白さんはあんな倒れるような状態だったのに……べつの理由でこの町の危険を食い止めていた。  寄白さんは何かの裏に隠れてけっこう重大な動きをしていることが多い。  いちおう影武者かよ?!とツッコんでおく。  もしかしたら、九久津と寄白さんは阿吽の呼吸でバシリスクと人体模型を二手に分けて倒しにいったのかもしれない。  ……六角市は寄白さんと九久津、そして近衛さんに守られた。  この町の能力者と当局の能力者に。    あとは校長が「蛇」という敵の存在の心配をしていた。  どんな奴なのかはまったくわからないけど、不穏な動きをしてることは俺でもわかった。  もしそんな奴がいるならなんとかしないと……。  そのときに「|六角第一高校《いちこう》」来ていた救偉人の二条さんって人が、アンゴルモアの討伐隊の人だと後で知った。    四階から寄白さんを担いできたのもその人で、さらに驚くことに、寄白さんの特種校の担任の先生でもあった。  さらにさらに、この|六角市《まち》を数年間守っていた能力者。  数年間というのは九久津のアニキ亡くなって校長とのバディを解散し、六角市内に主力の能力者がいなかった数年間のことだ。  その後は替わりに派遣されてきた能力者たちが、シフトで穴埋めをしていき、やがて寄白さん、九久津、社さんたちへと代替わりをした。  俺がのほほんと小中学校の学生生活を送っていたときも、やっぱりその人たちが六角市を守ってくれてたんだ。    俺も早く追いつかないとな。  ちなみにここ一週間で俺がアヤカシと戦ったのは、たった一度だけ。  それは四階のヴェートーベン。  けど前とまったく同じ奴のような気がした……。  寄白さんがずっと手を出さずに見守っているピアノは、相変わらず低音を鳴らしてる。  あのピアノも害はなさそうだけど、ブラックアウトしたら鍵盤とふたが口と牙になって襲ってきそうな気もする。  あと俺は別案件で六角市の南南東の郊外にある廃材置き場に出向いたことがあった。  いってみたけど、「茶色に近い黒い動物の毛」と「黄色い動物の毛」が散らばっていただけだった。  あれは何かの野生動物のものだと思う。  一応、当局が調べるみたいだけど、あんなのをいちいち調べてたらキリがないよな。  九久津が学校を休んでいるあいだ|六角第一高校《いちこう》では、変な噂が流れていた。  イタリアサッカー界にスカウトされただとか、ノーベル賞の候補になっただとか、芸能界デビューするとか、それはもうムチャクチャな話だった。    これが噂に尾ひれ羽ひれがつくってやつだ。  じっさいはホームルームで担任の鈴木先生が――九久津は急遽約一週間の交換留学にいった。と取ってつけたような理由を言ってただけだ……。    けど、交換留学ってことは九久津の代わりに誰かが六角市に来てるってことになるよな?  代わりは誰だよ、そんな嘘すぐバレるだろう。    学校の七不思議やこの六角駅の話と同じで、当局が流したんだと思ってる。  当局ならやりそうだし。    この一週間でわかったことだけど、校長たちと当局はそこまで仲が良いってわけじゃなかった。  大人の組織だからそうかもしれないと妙に納得した。  そんなこととは反対で、ここ数日、学校は静かだった。  今日の理科の授業で習った「XX染色体」と「XY染色体」が、アヤカシとは無関係でとてつもない日常を感じさせてくれた。  遺伝といえばルーツ継承だよな? と思いつつ、俺は教室の雰囲気にどこかホッとした。  あっ、ルーツ継承のことを考えてるって、俺も、すでに|能力者《そっち》思考だ。   ※

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