極東黙示録1927 | 第壱章『帝都に舞う式鬼、霊鎮めたる巫女』
寝る犬

第捌話「詳報―しょうほう―」

 軍事機密 陸軍省受領 陸密受第二九三二号  陰陽独立特務大隊《おんみょうどくりつとくむだいたい》詳報《しょうほう》提出の件報告  大正十五年三月十九日  陸軍大臣 宇垣《うがき》一成《かずしげ》殿 ■記  第二の式神甲冑《しきかっちゅう》奏者《そうしゃ》候補である少年、九条大和《くじょうやまと》(以下これを甲と称す)  第一回目の戦闘において、なんの訓練も行わず、自らの丹田に巣食いし龍種《りゅうしゅ》とみられる固有|式鬼《しき》を自らの身体へ憑依させることに成功す。  また、その左目は赤き光がやどりし邪気眼《じゃきがん》であり、陰陽光学鏡《おんみょうこうがくきょう》である『天目一《あめのまひとつ》』を使わずして、式鬼《しき》の外観を光学的に捉えることができる。  こちらについては今後研究班によるさらなる研究が必要である。  甲は九条公爵家の次男であるため、実験により孤児から生み出した八百比丘尼《やおびくに》(以下これを乙と称す)とは一線を画し、運用方法を含め様々な取り決めをする必要がある。  甲は乙の『絶対唯一』だと思われた霊子の波長、位相を持つ。また、その力を使い、通常の玉鋼《たまはがね》で鍛えられた軍刀へと、霊子を乗せ、式鬼《しき》を斬る事ができうるという特殊な能力を持つものである。 ■注意  甲は乙ほどの国家神道陰陽術《こっかしんとうおんみょうじゅつ》の訓練を受けていないためか、時折丹田の式鬼《しき》を制御できなくなってしまうことがあるようであった。一時的に乙《おつ》の能力により、体を乗っ取られる危険からは遠ざけてはあるが、経過観察が必要である。  現在は陰陽術の訓練を開始し、目覚ましい進歩を見せている。  また、丹田から霊脈《れいみゃく》を通り体を支配する経路を遮断された後も、符《ふ》を使うのと同じように、自らの身体を寄《よ》り代《しろ》として使い、体の外へと式鬼《しき》を実体化させたとの報告が寄せられている。  体に取り憑かせる使用法、体外に実体化させる使用方のどちらも、術者の霊子を著《いちじる》しく損耗《そんもう》させ、場合によっては死に至らしめる可能性も決して低くないことを追記する。 ■付記  昨日、銀座において甲が霊的攻撃を受けたとの報告のあった「ファティマ・ラスプーチナ」と呼ばれるキリスト教徒について付記する。  東京ハリストス正教会へ問い合わせたところ、確かに存在が確認された。  甲の報告による身体的特徴、特に全盲《ぜんもう》であり、珍しい銀髪であることなどから、襲撃犯《しゅうげきはん》である可能性は極めて高いと思われるが、ファティマ・ラスプーチナはロシア外交事務官《がいこうじむかん》の資格を有しており、ウィーン規則により、その身体の不可侵《ふかしん》を保証されているため、拘束《こうそく》することは叶わなかった。  ただし、本人の同意のもとによる霊子《れいし》検査の結果、式鬼《しき》反応は一般のそれよりも低く、陰陽術《おんみょうじゅつ》への適性も全く見られなかったことも合わせて付記する。  当事項については、露西亜通信社《ロシアつうしんしゃ》に委託し、継続して監視を続けることとした。  以上。  陰陽独立特務大隊長《おんみょうどくりつとくむだいたいちょう》  陸軍少佐 安芸津《あきつ》龍三郎

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