第二話

 どうやら人は定められた運命というものからは、逃れられないのかも知れない。例え変えられたと思っても、それは僅かなものなのかも知れない。  若き死神から明日事故で死ぬと告げられて俺は多少は藻掻いた。交差点を渡る時は十二分に注意したし。外出はなるべく控えたのだった。  でも、それでも俺は信号を無視して交差点に突っ込んで来た車に跳ねられ即死してしまった。  その瞬間はよく言われるように、ストップモーションのように景色が見えた。 「ああ俺はやはり死ぬんだな」  ゆっくりと流れる景色を見ながら、そんな事を考えて意識が遠くなった。痛みも何も全く感じなかった。  気がつくと、昨日の若い死神が俺の傍に立っていた。体から霊体が抜け始めていて、死神はそれを手伝ってくれた。案外イイ奴なのかも知れないと思った。 「悪いな。手伝って貰って」 「いえ。これも仕事ですから気にしないでください」 「それでこれからどうするんだ?」  俺の質問に死神は 「まず霊界に行く前に冥界と言う所で霊界に行く準備をして貰います」 「準備?」  何の準備なのだと思った。このままでは駄目なのか 「冥界なんで言うと大げさですが、所謂、三途の川のところですよ。そこで川を渡る準備をするんです」  三途の川というと渡し賃が要るとか言われているが、そこはどうなのだろうか。俺は仕事帰りだから多少は持ってる……確か一万円ぐらいは入っていたはずだが……。 「大丈夫です。貴方は事故で死んだので特例が認められます」 「特例?」 「そうです.」  良くは判らないがどうやら心配しなくても良いと言う事は判った。俺は事故のあった交差点の真上に浮かんでいた。下を見ると大勢の人が集まって来ていて、遠くからはパトカーのサイレンも聞こえて来ていた。俺の死体は正直見たくもなかったが、今生で見られるのは最後だと死神が言うので話しのネタに見ておく事にした。  地面に降りて見ると、どうやら俺の姿は他の人には見えないらしい。俺はちゃんと見えるのだが、面白いものだと思った。 「うわ~即死だよ。頭割れてるし」 「ひどいな。見ないほうがいいぞ」  野次馬はそんな事を言っている。俺は地面に倒れて変んな方向に首が曲がっていて頭から血を吹き出してる、先程まで俺だった死体を眺めた。確かに酷いと思った。あまりにも酷いので葬式までには死化粧をして欲しいと思った。すると死神が 「大丈夫ですよ葬式までには元の状態に戻りますよ。ご安心を」  何だか死神には皆お見通しだったみたいだ。 「さ、いつまでも居ても仕方ないですが、どうします?」 「どうするって?」 「葬式までは居られるんですよ。でも自分の葬式は見たくないと思えば、これからすぐに旅立ちます」 「向こうに行ったら見られないのか?」 「いいえモニターで確認は出来ます」  そうか。それなら今すぐに旅立っても良いかと思った。死神の言葉によれば、今後の事は心配しなくても良いらしい。最も俺には今更何も出来やしないがな。 「じゃあ行こうか」 「了解しました」  死神は俺の手を掴むと上空に登り初めた。やはりあの世は天にあるのだろうか。下を見ると地上の景色がドンドン小さくなって行く。さらば俺よ。何だか落語「粗忽長屋」みたいだと思った。  どんどん上に登って行くと辺りが暗くなって行く。でもどうやら宇宙とか大気圏とかとは違う感じがした。俺は俺の手を引っ張ってる死神に 「ここは大気圏外とは違うんだな」  そう尋ねると 「登り始めて直ぐに次元の壁を潜り抜けましたからね」  そうなのか。あの世は違う次元にあるのかと思った。 「もうすぐ賽の河原に到着しますよ。そこで私とはお別れです」 「その先は?」 「指示してくれる者がいますから大丈夫です。それに同時刻に亡くなった方が大勢到着してるはずですから心配要りませんよ」  死神のその言葉が終わる頃に賽の河原に到着した。 「ここが賽の河原です」  そこは想像していたような寂しい景色の場所ではなかった。河原の土手には色々な店が並んでいて賑やかだった。 「人間界で言われているような寂しい場所じゃなかったんだな。それに河原で石を積み上げている子供も居ない」 「今はこの先の建物の中でやってます。3Dのゲーム形式で石を積上げているんですよ。クリアすれば川を渡れます。難しいですけどね」 「3Dゲームとは現代的だな」 「環境保護ですよ。世界中から親不孝な子供が集まるんですから、賽の河原の小石なんてまたたく間に無くなってしまいます」  そうか言われてみれば確かにそうだ。 「だからある程度苦労させればクリアさせているんですよ。地獄にも情けはあります」  土手に並んだ店は色々なものが並んでいた。 「そうそう。これを渡しておきます」  店を見ている俺に死神は一枚のカードを手渡してくれた 「これは?」 「ここと霊界に行った時に特典を受けられるゴールドカードです」 「ゴールドカード?」 「はい、亡くなった方全員にカードを渡していますが、あなたは寿命を全う出来ずに亡くなりました。自殺なら罰則ものですが、あなたは事故なので自分の本意とは違う不幸な亡くなり方なのでゴールドカードが与えられるのです」 「普通は色が違うのか?」 「そうですね寿命を全うして亡くなればシルバーカードです。後は死に方によってランクが違って来ます」 「ゴールドだと何かあるのか」 「まず、このカードを見せればここでの買い物は全て自由に買えます。大したものはありませんが色々なものを楽しむ事が出来ます。一応飲食も自由です。食べてもお腹いっぱいにはなりませんけどね。その代りお腹も減りません」 「シルバーだと?」 「限度額が設定されています。超えると霊界で返済して頂きます」 「返済って?」 「霊界での修行の積み重ねから引かれるのです」 「霊界って、行くとどうなる?」 「霊界に行くと亡くなった方は自分の霊位に合わせて修行をするのですが、ゴールドカードを持ってる方は審査の順番を早めることが出来ます」 「審査って?」 「亡くなった方はその霊位に合わせた階層に行ってそこで修行するのです。その霊位を審査するのです。現世は修行の場ですから、向こうでどのくらい霊位が上がったのかを審査するんです。その順番が早くなるんです」 「普通は待つのか?」 「そうですね。四十九日ぐらいは待ちますね」  そうか、それで四十九日の法要があるのかと思った。 「この土手を歩いて行くと、突き当りに風呂屋があります。そこで浮世の垢を落としてください。出口が船着き場の待合室になってますから。二三日ならここで遊んで居ても良いですが、なるべく早く来てくださいね。じゃ僕はこれで」  死神はそう言うと来た道を戻って行った。きっと次の現場に立ち会うのだろう。  土手の店は色々なものが並んでいた。例えば、団子などを売ってる和菓子の店や飴屋みたいなものから、天ぷら屋、牛どん屋もある。かと思えばお守りも売ってる。何でも霊界に行っても酷い所には行かないようにご利益があるのだと言う。  俺は一通り見たが食欲は無いので何もしないと思ったが気が変わって風呂屋の前に置いてあったプリクラで自分の姿を撮影してみる事にした。掛かりの男にカードを見せると 「おおゴールドの旦那ですか。どうぞどうぞ」  そう言って機械を操作してくれた。出てきた写真を見ると己の姿が二十歳頃に戻っていた。若返るというのは本当だったんだ。 「旦那良く撮れていますよ」 「そうかい。ありがとう」  お世辞だろうが悪い気はしなかった。風呂屋に入ってカードを見せると手ぬぐいと体を拭くタオルを貸してくれた。それに着替える制服も一緒だった。髭を剃ろうと思って顎を撫でたら生えていなかった。どうやら幽体では髭は生えないらしい。  一応男女別に別れており、洗い場はかなり大きくそれぞれにボディーソープとシャンプーが備えられていた。シャワーの形も現世と全く変わらなかった。  湯船に向かう。ここもかなり大きく一度に数十人は楽に入れる広さだった。湯加減は丁度良かった。どうやらそれぞれに丁度良く感じる仕組みらしかった。というのも横の男が 「俺は熱いのが好きなんだが、ここは丁度良いな。他の人はこの温度で良く入っていられるな」  と口にしたからだ。俺はヌルい湯が好きだから人によって感じる温度が違うのだと思った。  充分に温まったので湯船から上がり体を拭く。たちまち体が乾いて行く。制服のようなものに着替えて出口に向かうと、タオルと手拭いと着ていた衣服の回収箱が置いてあったのでそこに入れて出口に向かう。  出口の扉を開けて表に出ると三途の川を渡る船の待合室だった。これなら間違い様がない。  待合室の椅子に腰掛けて眼の前のモニターを眺める。そこには霊界の模様が映されていた。女性のナレーターが『霊界で修行して霊位を高めましょう』などと語っていた。今後の事だが生きている時にふと思ったのだが死神の養成所に入るのも悪くないと考え始めていた。アイツが言っていた通りに「人の役に立ってる自覚はあります」という文言に納得し始めていたからだった。  やがて順番になって連絡船に乗り込んだ。連絡船と言うが外観も何やら飛行機を思わせる感じだったし客席は全く飛行機そのものだった。違うのは飛行機より窓が大きかった事だった。 「それでは出発致します。シートベルトをお締めください」  そんなアナウンスが流れるのも似ていた。 「それでは出発致します。霊界に到着する所要時間は凡そ二十分でございます」  その放送が終わると何と連絡船が空中に浮かび三途の川の上を飛び始めたのだった。三途の川は広く、川と言うよりも海を思わせた。感覚で言うと海峡を渡っている感じなのだ。  快適と言うより振動も何も伝わって来ないので不思議な感じだった。そのうち誰かが 「ほら見えて来たわ」  そんな事を言うので窓の外を見ると、遥か川の向こうに白く輝いている大陸みたいなものが見えて来た。やがてその白い大陸の上に黄金に輝く建物が見えて来た。余りの神々しさに俺は、あそこが天国というものではなかろうかと思ったのだった。

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賽の河原も現代的になって来ているのですねw 制服も白装束ではないようですし。 この面白さは、ある程度仏教的な死後の世界を知らないと分からないでしょうけど(^^)

2019.04.29 18:01

ST

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