幕間(1)ー手渡される選択肢

 “作られた誕生日”を、翌日に控えた夕餉の席。  古月は|今日《こんにち》まで世話になった礼と共に、城から去る旨を伝えた。 (……十五になったら。塾を卒業して。仕事を見つけて。恩返しをする。その気持ちは変わらない)  薄く開いた襖から。  傾いた月光が射し込む。 (……将来、どんな風になりたいだとか。どんな風に、生きていきたいだとか。考えても考えても、答えは出ない。でも……お屋敷の外を、もっと見てみたいと思った。知りたいと思った。わたしが知らない人と、わたしを知らない人と、色んな話をしてみたいと、思った。それから)  ────夜霧様と、お話したい。お話を、聞いてみたい。 「……最後は、もう、叶わないけれども」 「何が叶わないんだい?」 「…………!」  襖一枚を隔てた向こう側。  かたん、と。  火受け皿が、廊下に置かれる。 「…………」 「相変わらずの黙りさんだね。では、俺も独り言を話すとしよう。  人と人とを隔てる階級制度は、この国には存在しない。だが、実情は違う。自分と異なる容姿の者を蔑称で呼び、区別し。人から人へ、親から子へ、語り継がれてきた差別意識の蓄積。それが|××××《化け物》の正体だ。知ろうとも理解しようとも思わなければ、揺れる葉ですら、奇怪なものに見える。畏怖や恐怖で形作った産物に、|体《てい》の良い呼称を付けただけ。暴いてしまえば、それだけの話。  けれども、時間とは末恐ろしいものでね。今や|突然変異体《とつぜんへんいたい》に対する差別意識は、国の根幹だけでなく、民の無意識下にまで根付いている。俺も手は尽くしてきたが、それでも思ったように改善していない。一朝一夕に解決出来る問題でない事は、分かっている。だから、次の手を打つ事に決めた」    襖が開き。  座している夜霧が、分厚い封書を差し出す。    「突然変異体であっても、城内仕官が出来るという前例を作る為に。  古月。俺に、力を貸してもらえないだろうか」  【城内仕官者採用試験募集要綱・改定】    表を改めた封書を手に、古月は息を飲む。        ┄┄┄┄┄┄  国城に仕官する。    屋敷の者は勿論、悟や詩織さんも喜んでくれるに違いない。    でも。    もし、もしも仮に、叶えられたとして。    また、騒ぎが起きたら。    また、この人に迷惑をかけたら。    わたしは、この人に、嫌われ            ┄┄┄┄┄┄ 「古月」  名を呼ぶ声に。  落ちてしまった視線を、古月はゆっくりと上げる。   「唐突な話だから、|兎角《とかく》混乱していると思う。すぐに返事をくれとは言わない。  君が心を決めた時、また|国城《此処》で会おう。俺は、合格者に話をする場に居るからね。会える事を楽しみにしているよ。古月」    微笑んだ顔も。  去っていった背姿も。  初めて夕陽の中で見たものと、何も変わらなかった。

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