異能者たちの苦悩 | 第二章 バシリスクの回帰
ネームレス

第79話 救偉人の資質

 俺と近衛さんは、静かになった亜空間に向かって歩いてる。  周囲の変化や、足元に注意しながら足を進める、闇の中に靴音だけが響く。  俺は沈黙が嫌で話題を探した。  「あの、さっきの一条さんって人は誰ですか?」  「一条? ああ、彼は外務省の人間だよ」  彼ってことは? 男か?  ディメンション・シージャーは男。  「外務省ですか?」  「そう。早く言えばワタシと同じ役人だ」  そっか、近衛さんが「KK」のバッジをした国交省の役人だもんな。  一条って人は外務省の役人か。  近衛さんレベルの能力者は政府には多いんだろう。  国立病院に出向してる厚労省の医師って人も同等の強さな気がする。  「あの~、その一条さんも救偉人ですか?」  「ああ、そうさ。ただ、さっき言った厚労省の同期は救偉人を辞退しているがね」  「じ、辞退なんてできるんですか?」  辞退するって、なんでそんな名誉なことを?  医者で救偉人なら無敵なのに。  「ああ。できるよ。救偉人ってのは対アヤカシに|秀《ひい》でた人間に勲章を授与するってだけの話だから」  「そうなんですか?」  「そう。だから能力を持たない救偉人だっているし。他に勲章の同時受賞なんかもある」  「えっ?! 救偉人って特別な能力者の九人にだけ【|臨《りん》・|兵《ぴょう》・|闘《とう》・|者《しゃ》・|皆《かい》・|陣《じん》・|烈《れつ》・|在《ざい》・|前《ぜん》】の称号が与えられるんじゃないんですか?」  「まあ、それは正しいと言えば正しい。基本的に救偉人は毎年春と秋に九人ずつ選出される。つまり一年で十八人だ。そうなると単純計算で年に十八人の救偉人が誕生することになる」  「そ、そうなんですか? 国内に九人|だけが《・・・》存在しているんだと思ってました」  「それじゃあ人口比率に対して救偉人があまりに少なすぎる。救偉人のバッジはそれなりの権力を与えられているんだ。多すぎても少なすぎてもいけない」  「あっ、よく考えればそうですね」  「ここ六角市では今まで二人の救偉人を輩出している。それこそひとりは九久津毬緒の兄。九久津堂流」  えっ、九久津の兄貴が……。  そうだったんだ。  「もうひとりは国立病院に勤務する|只野《ただの》医師。彼は六角市出身の救偉人ではあるが非能力者だ。だが魔障に対する真摯な研究を認められて勲章を授与された|稀有《けう》な例といえる」  「へ~」  なんか意外だ。  強い能力者のみが優遇されるのかって思ってた、って俺って単純だな。  バスの運転手とかを治療する人も大事だよな。  あの魔障が治るなら、一般の協力者の人も心強いだろうし。  強さだけを求めるって武道家の世界じゃないんだ。  むしろアヤカシを倒す強さよりも、大勢の人を救うのが医療の方が求められているのかもしれない。  ……そうだよな、俺の目も魔障が原因だって言われて少しホッとした。  それは原因不明の現象に怯えるより、治療でなんとかなるかもしれないって|一言《ひとこと》があったらからだ。    理由がわかるってスゲー希望だ。  反対に理由がわからないってことほどの恐怖はない。  「さあ、おしゃべりはここで終わりだ」  近衛さんは姿勢を低くして、小刻みに視線を揺らしてさきをいく。  「あっ、はい」  物音ひとつしない亜空間に近づくにつれ、その大きさに驚かされた。  こんなに大きな空間だったんだ。  何かの映画で見た大型怪獣の卵のようでこの静けさが逆に怖くなる。  突然何かが襲ってきそうな緊迫感。    ただの|瓦礫《がれき》にしては、比較的綺麗だと思った。  至るところが蜘蛛の巣状にヒビ割れていて、まるで崩れた映画のセットのようだ。  大きな裂け目から亜空間の中に入ると、焦げ臭いニオイが充満してた。  床には途切れ途切れだけど、何かが這いずった黒い跡がくっきりとあった。    まるで蛇が蠢いてたかのような跡。  きっとバシリスクの動いた|経路《みち》だろう、人間でいうところの足跡。    床は|凸凹《でこぼこ》だけど乾ききってて、よほどの高温で熱せられたんだと思った。  「ワタシだ。救護部と解析部を六角市守護山の麓に派遣してほしい。詳しい場所はこのスマホの位置情報で特定してくれ」  近衛さんは電話の相手に今、必要なことを的確にそして端的に告げていた。

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