五十四.五話 迎え撃て、ウェスティリアさん

 ――カケル達が対抗戦を行っているころ、ウェスティリア達は港町フルスへと到着していた。  「確かに引き受けました! ご協力感謝します」  「頼みましたよ」  ウェスティリア達は道中で懲らしめた盗賊五人を町の警備隊へ引き渡すと、今日の宿を決めるため移動を始める。  「ようやく向こうへ渡れますね。出発は明日がいいのかしら?」  「そうですね、早い方がいいでしょう。船旅も楽ではありませんからね。かといって昼時から出ている船もありませんから明日が最短ですよ」  ウェスティリアの言葉を聞いてルルカが頷きながら賛成する。天候によって到着が遅れたり、避難のため途中にある島へ寄るなどは良くある話なのだ。早いにこしたことは無いとルルカは強く言い放つ。  「(ここで海産物を食べて足止めをくらうわけにはいかないからね……)」  と、ルルカの願いも虚しく、ランチのメンタイパスタを食べたウェスティリアは一日だけ他のものも食べたいと滞留することになった。ルルカの顔がぴくぴくしていたのが良かったのか『一日だけ』と自分から言ったのは成長の証なのかもしれない。  「ふむ、このタコの酢漬けは食感がいいな。お酒が欲しくなる」  「はあ、あんたまで……まあボクのカニのホワイトソース煮込みも美味しいけどね」  諦めができたら楽しまねば損と、タコ足をかじるリファと料理の交換などをしながらゆっくりとした時間を過ごす一行。ランチをお腹いっぱい食べた後、お店を出たウェスティリアは先程自分達が歩いて来た道が騒がしいことに気付いた。  「おや、何かあったのでしょうか?」  「行ってみますか?」  「もしかしたらお祭りかもしれませんしね」  若干悲鳴もあがっているのにそれは無いだろ、と思いながらルルカも二人の後を追い、人ごみをかき分けて進むと随分と派手なケガをした男が数人座って怒声をあげていた。  「盗賊の馬鹿どもに襲われたんだ! 荷は持っていかれちまったが、何とか全員無事なのが幸いだったぜ。何か、追剥ぎ役の仲間を連れて行かれたとか騒いでいたけど……」  「ああ、さっき盗賊を引き連れていたやつらがいたなあ。そいつらの仲間だったのかね?」  「かもしれねぇな……クソ! 中途半端に手を出しやがって! 潰すなら根こそぎやれってんだ!」  「まあまあ、命があっただけ良かったじゃねぇか。ほら、ケガ人は病院へ運ぶぞ」  少し前まで荷物が乗っていたであろう荷車にケガ人を乗せ、男数人でガラガラと引いていくのを横に避けたウェスティリアが目で追う。近くに居たおばさん荷車を見ながらポツリと呟いた。  「……でも本当に厄介だわね。盗賊達が仲間を取り返しに来なければいいけど」  「警備隊もいるんだし、大丈夫じゃない? それよりお腹すいたわね、旦那に内緒でランチ行かない?」  「……何ということでしょう……私達のせいで町が襲われてしまうなんて……」  「いやいや、まだ決まってませんからね? 仮に来たとしても、町の人達が何とかしますよきっと」  青い顔をして項垂れるウェスティリアにルルカがなだめていた。実際あれは不可抗力で、放置しておいたら犠牲は増えていたかもしれないと考えるとウェスティリアががっかりするのは少し違う。  「では、我々で迎え撃って一網打尽にするというのは如何でしょう?」  「それです。採用」  「こらこら!? ボクの話を聞いてた? 別に無理して戦わなくてもいいでしょうが!」  するとウェスティリアが首を振ってニコッと微笑みながらルルカへ囁くように言う。  「経緯はどうあれ、私達も関与しているのは事実です。それにどうせ退治するなら協力した方がいいと思いませんか?」  「お嬢様の言うとおりだ! 外道達を思い知らせてやらねば!」  それをジト目で聞いた後、ルルカは目を細めて呟いた。  「……まさか、暴れたいから、じゃないでしょうね? リファは報酬に目がくらんだ、ってところかな……?」  ギクギク!?  「そ、そんなわけありまひぇん! 私は町の人達の為に!」  「そうだぞ、ルルカ! お、お金なんて……いっぱいもらえたなあ……へへ……」  「隠そうともしない!? まあ、一日猶予がありますからその間に襲撃があればいいですけどね……」  「あれ? ルルカも暴れたいんですね? そうなんですね?」  ずいっと満面の笑みを近づけてくるウェスティリアを押しのけルルカが叫ぶ。  「ええい、近いわね! でもどうせやるなら徹底的に。それなら許可するよ」  「勿論です! ふふふ……早速今晩から深夜徘徊しましょう。今から寝ておけば夜は動きやすいでしょう?」  「ええ、流石はお嬢様。私達のこともきちんと考えてくれているのですね! 宿はあちらのようです。ささ、参りましょう」  「(全然眠くないのに……)」  凄くやる気になっているリファがうざい。そう思いながら、ルルカは宿へと引っ張られて行った……。  ◆ ◇ ◆  ――その夜  「……こっちだ」  「おう。くそ、アホ共がドジりやがって……口を割られてアジトの位置を知られたらアウトだっての」  「言うな。逃がせそうなら一緒に逃げる。ダメなら口を封じる、異存はないな」  コクリと頷く盗賊団。ざっと二十人ほどが町の外に勢ぞろいしていた。  そう、ウェスティリアが捕まえた盗賊の仲間である。口を封じる、と発言した男が団の頭で、アジトの位置がバレてはマズイといち早く行動を起こしたのだった。  ウェスティリアが懲らしめていた時、サーチの範囲外にもう一人監視役が木の上におり、その盗賊が報告に戻ったので捕まったことがすぐに分かったというわけである。  捕まってすぐに口を割ることはないが、二日、三日と拷問を受ければいつかは口にする。そういうものなのだと分かっているので頭の判断は正しかった。  だが、盗賊達にとって運が悪かったのはウェスティリア達が町にまだいたことであり、さらに退治する気満々だったことだろう。  では、少し場面を早送りしてみたいと思う。  「≪シャインエッジ≫!」  「兜割りぃ!」  「うわあああああ!?」  「散れ! 逃げろ! こいつら頭がおかし……ぎゃあああ!?」  「あーあ……」  昼寝をしっかり取った三人は町の壁の周りを徘徊し、盗賊が来るのを待った。この町は海があるので、盗賊が攻めてくるルートは割と限られてくることをリファが進言し、重点的に攻められると弱そうなところを探索していた。今日、いきなり現れるとは思っていなかったところにお互いが鉢合わせ、戦闘……もとい蹂躙が始まったという訳である。  「リファ、建物の裏に一人隠れました」  「は! ……みぃつけた!」  「いやぁぁぁ!?」  「はいはい、大人しくしていたら死ぬことは無いからねー」  雑魚盗賊達が次々と倒され、ルルカによって丁寧に縛られていく。最後に残った盗賊の頭が激昂し、叫んだ。  「何だ!? 何なんだてめえらは! 壊滅だと? 俺の団が? 小娘三人にか! ふざけるな!」  地団太を踏みながら、独り言のように叫ぶと、リファがドヤ顔で言い放つ。  「ここにおわすお方をどなたと心得る! 恐れ多くも、光翼の魔王様であらせられるぞ!」  満更でも無い顔をしたウェスティリアが杖を頭に突きつける。  「そういうことです。残念でしたね。みたところ貴方が一番上でしょう、これで終わりです」  「ま、魔王だと……!? 光翼の魔王はおっさんのはずだろ……!? そんなのに勝てるか……!」  踵を返して逃げようとする盗賊の頭。だが、ウェスティリアは冷静にそれを対処した。  「情報が古いですね。 ≪光の鎖錠≫」  「うお!? なんだこりゃ!? う、動けねぇ……!? ぐへ!?」  足と腕、首に光の鎖が絡みつき、無様に転がる盗賊の頭をルルカがロッドで殴り気絶させると、辺りに夜の静けさが戻ってきた。  「……勝った」  「さも頑張ったって顔してますけど、一方的でしたからね? でも初日に現れてくれたのは良かったわ……明日も徘徊するとかにならなくて……」  「暴れたらお腹が空いてきましたね。こいつらを引き渡して何か食べに行きましょう、お嬢様!」  「お酒の出るお店がいいんじゃないかしら? そうと決まれば早速……あら、向こうから来てくれましたね」  「騒ぎがあると聞きつけてくれば……これは……」  「盗賊達が町を狙っているのを発見しまして、討伐いたしました。この男が頭のようですよ」  コンコンと、ウェスティリアが気絶した頭を軽くたたきながらにっこりとほほ笑むと、警備隊の面々はゾクリと背中を震わせた。  「(隊長! 何ですかこの娘達は!? 指名手配のグリーバーですよこの男、レベル24は固いって噂の!?)」  「(俺が知るか!? と、とりあえず刺激しないように、な?)」  会って一秒で猛獣レベル認定されたウェスティリアはこの後、ホクホク顔で報酬をもらい、酒場へと繰り出した。   中一日、しっかり美味しい物を食べた一行は程なくして船へと乗り込む。  天候に恵まれ順調に船旅は進む。  そしてカケルのいるコーラル大陸へ到着したのは、ちょうどカケルが城から逃げ出した翌日のことであった。

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