恋してクエスト | 隣は私 ~織川美海の日常~
宮本 コウ

なむあみだぶう~う

 「きみょうむりょうじゅにょらい~、い~。」  住職の独唱でおじいちゃんの百か日法要の幕が上がった。  「「「「「なむふかしぎこう~、ほうぞうぼさいんに~・・・・」」」」」  続いては、おじいちゃんの百か日法要に出席する親類縁者と住職の輪唱だ。  「「「「「ざいせいじざいおうぶっしょう~。」」」」」  これから1時間余り、輪唱が続いていく。  出席者は私とお父さん、お母さん、弟の|大輔《だいすけ》。  おばあちゃん、お父さんの兄であるおじさん、おじさんの妻であるおばさん、いとこの|心愛《ここあ》ちゃん、いとこの|祐大《ゆうだい》ちゃん。  そして、血縁者ではないがこの村のおじいさん2人とおっちゃん1人。  この方たちは、近所親類というやつらしい。  おじいちゃんが亡くなったのは残暑の厳しい9月だった。  季節の変わり目で、体の負担が大きかったのだろうとお父さんやおじさんが言っていた。  末期がんで2年ほど入退院を繰り返し、闘病生活を過ごしていた。  齢80歳で亡くなったが認知症になる事も無く、ケアハウスに行ったりして穏やかな生活を送ることが出来たらしい。  「こんばんは。」  「こんばんは、美海ちゃんも大輔ちゃんもよく来てくれたねえ。」  玄関でおばさんが出迎えてくれた。  「みんな、よく来てくれたねえ。おじいちゃんも喜んどるわ。さあ、さあ、仏壇にお参りしてあげて。」  おばあちゃんがにこやかな顔で私たちに告げる。  私たち家族は仏壇の前に座り、お賽銭を置き、お父さんが鐘を鳴らすのと同時に目を閉じ、手を合わせた。  「おう、よう来てくれた。」  お父さんの兄であるおじさんが現れた。 「こんばんは。」「こんばんは。」  いとこの|心愛《ここあ》ちゃんと|祐大《ゆうだい》君も現れた。  私と心愛ちゃんは高校生、大輔と祐大君は中学生で、みんな制服を着ていた。  そして、20~30分ほど、この村の住職さんと近所親類の方がくるまで親戚付き合いの会話に講じた。  夜の7時半頃に近所親類の方々が集まり、ほどなくして住職さんがやってきた。  暫く世間話を交わし、おじいちゃんの百か日法要が始まった。  「「「「「じねん~そく~にゅうひつじょう」」」」」  「「「「「ほうどいんが~けんせいがん~」」」」」     【バサッ】  え、何の音?  一列目に座っている村のおじいさんが念仏の本を落とした。  おじいさんは暫くして本を拾った。  「「「「「が~やくざいひせっしゅうちゅう~」」」」」  「「「「「ぼんのうしょうげんすいふうけん~」」」」」     【バサッ】  また、おじいさんが本を落とした。  どうやら、居眠りをしているみたいだ。  2列目でおじいさんの後ろに座っているお父さんがクスクス笑っている。  1列目でおじいさんの隣に座っているおじさんは笑うのを我慢しているようだ。  「「「「「ゆいか~しんし~こうそうせ~」」」」」  お念仏の前半が終わり、住職さんの説法が始まった。  「|哲夫《てつお》さんが亡くなって、もう百日になりますなあ。」  哲夫とは亡くなったおじいちゃんの名前である。  「人の噂も七十五日と言いますけど、四十九日までは毎週、法要がありますさかい忘れへんもんですけど、百日経つとなると、少しずつ忘れていくといいますか、思い出になっていくといいますか、寂しいもんですなあ。」  暫く住職さんの説法が続き、列席者はおじいちゃんの思い出を懐かしんでいた。  「それでは、始めますかいな。」  後半の法要が始まった。  「「なむあみだ~ぶぅ~」」  え、この行は住職さんの独唱じゃないの?  住職さんとおじいさんの2重奏になっている。  「「「「「な~む~あ~み~だぁ~ぶ~う~う」」」」」  みんなで輪唱だ。  「「「「「な~む~あ~み~だ、あ~ぶ」」」」」  「「「「「なむあみだぶう~う~う」」」」」  「「「「「な~む~」」」」」  「「あ~み~だ~ぶ~」」  また、住職さんとおじいさんの輪唱だ。  お父さんが必至で笑うのを我慢している。  でも、3列目の私にはクスクス笑っているのが聞こえてくる。  おじさんは息を止めて笑うのを我慢している、必至のようだ。  「「「「「な~む~あ~み~だ、あ~ぶ」」」」」  「「「「「な~む~あ~み~だ、あ~ぶ」」」」」  「「「「「な~む~あ~み~だ、あ~ぶ」」」」」  「「「「「な~む~あ~み~だ、あ~ぶ」」」」」  「「「「「なむあみだぶう~う~う」」」」」  「「げだのこうりんきわもなし~い~」」  住職さんとおじいさんの輪唱は続く。  住職さんも負けてはいない、さっきより声を張り上げている。  おじさんは我慢の限界が来たようだ。  おじいさんの隣で手を当てクスクス笑っている。  2列目のお父さんとあ母さん、おばさんも全滅だ。  みんな口元に手を当てクスクス笑っている。  当然ながら3列目の私たち子供はみんな小声で笑っている。  「「がん~にい~しく~ど~く~」」  「「「「「おうじょう~あん~ら~こ~」」」」」      【チーン】  帰りの車中でお父さんに聞いてみた。  「よくあるの?」  「なにが?」  「近所のおじいさんの居眠りや住職さんへの割り込み」  「たまにあるな、あれが始まると笑うのを我慢しないといけないからなあ。 我慢大会だな。」    終わり

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