第69話   特攻野郎? ひまわりチーム!

良く分からないけど、<ウォッチャー>ってネットの情報屋だよな? 同業者ってそんなにたくさんいるものなんだろうか。 『友だちだから』 爽やかに、<風見鶏>は答える。 「嘘だろ?」 『バレたか』 全く悪びれない、悪戯っぽい笑い声。 「利害関係が一致したからって、さっき言ったよな。それってどういう利害関係?」 『彼は君を安全に保護したかった。僕も、優秀なる情報提供者である君の身の安全は確保したかった。彼にとっても僕にとっても、君を害する者は敵だというわけだ。ほら、一致してるだろう? 僕と彼の利害関係』 「あのさ……あんたが俺に提供を依頼してくる情報ってさ、本当に役に立ってるの?」 いつも感じていた疑問を、この際だからぶつけてみる。 不明ペットの種類や性別、模様、毛並みの具合に、だいたいの年齢。そんなものが何の役に立つんだろう? 近所で飼われてる九官鳥の、おしゃべりのレパートリーに、どんな意味が? ……実は、その飼い主たちに興味がある? けど、いつも<風見鶏>が訊ねるのは、動物のことだけだ。 飼い主たち──ブルテリアの文さんの飼い主の菅原さんだって、九官鳥のカンちゃんのパパの小池さんだって、スコティッシュホールドのタレちゃんのお母さんの椿さんだって、皆ごく普通の人だ。多少飼い主馬鹿な面はあるけど、<ウォッチャー>みたいな情報屋が興味を持つようなところがあるなんて思えない。 今まであんまり深く考えたことはなかったけど、<風見鶏>って、やっぱり得体が知れないかも。 うーん……俺ってやっぱり、義弟の智晴が言うように、ヌケてるんだろうか? 『君の情報は、役に立ってるよ。大いにね』 くっきりきっぱり<風見鶏>は答える。 あ、今、懐かCMが頭の中を過ぎっていった。 ♪いっちにーさんしーごっくろうさん ろーくしーちはちくっきり と おしばさん♪ <風見鶏>はトリニトロンのよーに鮮やかにはっきりしてるってことだろーか。 ……我ながら、つまらん。 「<ウォッチャー>であるあんたに失礼だから、どういうふうに役に立っているのかなんて具体的には聞かないけど、……あんた、相当変わってるね」 溜息混じりに言うと、<風見鶏>が真面目くさって答えた。 『どういたしまして』 まあ、いいや。<風見鶏>は多分、俺にまつわる事件(こう表現するしかないってのが嫌だな……)のアウトラインしか知らないんだと思う。例えば俺の弟の死について、「運悪くヤクザの抗争のあおりを食った」という警察発表は世間に対する目くらましだということには気づいているだろう。けれど、殺害に至る詳細までは知らない。──そんな気がする。 <ウォッチャー>として、ヘカテ組織のことは掴んではいるだろう。が、当事者ではないぶん、それは彼の扱う膨大な情報の中に埋もれてしまっているんじゃないだろうか。 「とにかく、今回はいろいろ助かったよ。あいつに頼まれたからとはいえ、俺たちのために動いてくれて、ありがとう」 『気にしなくていいよ。だって、君はいつも僕に提供してくれる情報に対する報酬を、欲しがらないじゃないか。これは、僕からの報酬だよ。今までの君からの情報に対するね』 「大盤振る舞いだな……」 それなりのホテルのスイートルームを押さえたり、変装用衣装や小物を揃えたり、けっこうな出費だったと思うが。 『それだけの価値があるんだよ、君には』 ふふ、と<風見鶏>は言う。 その自覚してないところがいいんだよね、などとわけの分からんことを言われてもなぁ……。 『それに、<サンフラワー>に恩を売ることが出来たのはうれしいな』 微妙に狡猾な色の混じる声で、<風見鶏>は続ける。 『普段は、売ろうったって買ってくれないからね』 携帯から機嫌の良い鼻歌でも聞こえてきそうなんだが、あいつに守られてた一方の俺はどうすれば。 「ほ、報酬はいらないんじゃなかったのか?」 俺は焦ってしまった。インターネットの情報屋、<ウォッチャー>どうしで何かこう、ややこしい駆け引きがあったりするのか? 『君からの報酬はね。彼からはまた別』 「か、<風見鶏>……」 絶句する俺に、<風見鶏>は面白そうに言った。 『君が彼のことを心配することはないよ。<サンフラワー>は僕の何倍も老獪で狡猾で、抜け目がないから」 ……五十歩百歩とか、目くそ鼻くそとか、似たもの同士って言っていいですか。 『実は<サンフラワー>には実体がない、という話もあるしね。複数でチームを組んでいるんじゃないかという噂もある。その場合は、<チーム・サンフラワー>とでもいうのかな?』 「チーム……?」 やっぱり『スパイ大作戦』の世界なんだろうか? 俺には想像も出来ない。 『表に出てくるのは、ただのお飾りだっていう説もある。それだってどうだか分からない。<サンフラワー>はとにかく、一筋縄ではいかないんだ』 「はあ……」 ぼんやり返事だけ返す俺に、堪えきれないように<風見鶏>は笑っている。 「だけど、あんただって一筋縄じゃいかないんだろう?」 『まあね。この世界、海千山千一騎当千だから』 「まあ、別にいいけどさ……」 俺はどうせなら海の幸と山の幸がいいな。関係ないけどさ。 『さて。<サンフラワー>から僕の預かっている最後の伝言。──君を、そう、君たちを縛っていた危険はもう無毒化した。よって、全員帰宅してよし。だって』 「え?」 俺は驚いた。そんなに簡単に? 「本当に? 本当に大丈夫なのか? 芙蓉や葵や夏樹くんも? あ、ついでに智晴もか。俺たち全員、もう変装なんかしなくたってここから出て平気?」 『いいよ。大丈夫。もう心配は無用だ。そうそう、君にはまた<サンフラワー>から連絡入れるってさ』 情報の中には、公開された瞬間、価値がゼロになるやつがあるんだよね、と<風見鶏>は感慨深そうに呟いた。 公開された瞬間、価値がゼロ……? それってやっぱり──。 「<ヴァルハラ>に隠されていた情報、か」 俺は呟いた。弟が命がけで守った、麻薬<ヘカテ>に関する組織の──。 『え? あれって<ヴァルハラ>に祀られてた情報なの?』 <風見鶏>がびっくりしたように言った。 「知らなかったのか?」 『どっちのこと? <ヴァルハラ>? それとも、今回の情報?』 「えーっと……」 ああ、頭の中がぐちゃぐちゃに……。 『今回の情報なら、公開された瞬間、某所に届いたものを内緒でコピーさせてもらったよ。<ヘカテ>とその組織に関する、持ってるだけで死亡フラグの危ない情報だった。だからこそ、貴重だったんだが』 今はもう、<ウォッチャー>からしてみれば情報としての価値は無い。 <風見鶏>はそう言い切った。 『警視庁に警察庁、政府関係各所にマスコミ。その全てに、<ヘカテ>組織の全容が自動的に送りつけられた。信頼性のある資料と共にね──。もちろん、僕みたいにそれをこっそり横から手に入れる者もいる。だから、この情報はもう切り札にはなり得ない。皆が同じジョーカーを手に入れたんだから、そのジョーカーの持つ本来の意味は失われたというわけだ』 「そ、そうなのか?」 『そうなんだよ。だからこれによって君は、知らずに背負わされていた危険から開放されることになったんだ。君に関わった例の双子や君の義弟は、ある程度まではとばっちりだね。刺身のつまに過ぎない。君がメインディッシュだったんだから』 俺がメインディッシュですか……で、付け合せのポテトやにんじんのグラッセ、飾りつけの香草が双子と智晴と、夏樹というわけなんですね。 俺はついそんなしょーもないことを考えてしまい、ひとりで落ち込んだ。 『それにしても、あれは<ヴァルハラ>から開放された情報だったのか。道理で、どうやっても発信元が特定できなかったわけだ。……配信先も怖いほど的確だったしね』 <風見鶏>はすっかり感心している。 何やら闘志をかき立てられているらしいが、それが情報を扱うプロ、<ウォッチャー>の性なんだろうか。

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