プロローグ

「どうしよう! 洞窟の周りにどんどん|装甲殻類《カルキノス》が集まってきているわ!」  まるで地獄の門に続くような暗黒の口を開ける怪妖洞の入口は、片方のハサミが異様に大きいグリーンの働きガニと、明らかに戦闘に特化したトゲ付きレッドの兵隊ガニによって支配されつつある。  社会性を身に付けて進化した巨大ガニは、その数において人間を脅かす。  鹿命館中学校の制服姿のマリオットちゃんは、肩の震えが止まらなくなり姉のシュレムに身を寄せた。黒髪ロングヘアーがふわりと舞う。 「大丈夫よ、心配しないで。あのオカダ君とカクさんが付いているのよ、それにカルキノス研究者のパリノーがいるんだから。ブリュッケちゃんは無事に戻って来るわ」  看護師らしい白衣に身を包む姉のシュレムは何とか気丈な態度を保っていたが、安全なはずのスタリオン高機動車の車内においてさえ、数を増すケプラーシオマネキ軍団が醸し出す圧倒的な迫力と絶望感に心が折れそうになるのだ。 「あ~っ! 見て下さい! 洞窟から銃をぶっ放しながら誰か出てきますよ!」  婦警の半袖制服が似合うアディーは怪妖洞の異変にいち早く気付いた。 「牽制するため援護射撃します」  ジャガーの姿をしたアニマロイドのスケさんは、スタリオンの40mmマルチグレネードランチャーからアーケードの天井に向けてグレネード弾を発射した。  次の瞬間、天井で大きな爆発が起こり、大量の破片と埃がカルキノスの頭上に降り注いできたのだ。  ケプラーシオマネキの集団には、謎の統率が取れていたが、瓦礫の雨を浴びた事により大混乱が沸き起こった。 「あっ! あれはパリノー! パリノーが穴から出てきたわよ!」  シュレムはそう叫んだ後、セミロングの髪をかき上げながらスタリオンから飛び出した。M4カービンをフルオートで射撃しながら赤いカルキノスの甲を銃床で殴り付け、ナースシューズで小型の個体に蹴りを入れる。そして瓦礫を押し分けるようにパリノーの腕を掴んだ。 「早く! こっちよ、パリノー!」  カーゴパンツにタンクトップ姿のパリノーは、袖なしのジャケットが泥だらけになっている。二人は銃を抱えたまま、ハサミを振るうケプラーシオマネキに構わず逃げる、走る! 胸を揺らす! 「はあっ! はぁっ! はッ!」  しばらくはパリノーもシュレムもスタリオンの車内に倒れ込んだままだ。息を整えるまで何もしゃべれない。 「パリノー、もう大丈夫? 訊いていい? 他の二人とカクさんは?」  命からがら洞窟から脱出してきたパリノーに、スケさんは恐る恐る尋ねた。 「すまない、本当にすまない事をした。逃げる事ができたのは私だけだ。オカダ査察官には『俺にかまわず一人で逃げろ』と言われた……」 「そんな、ブリュッケちゃん……!」  マリオットちゃんはシュレムに抱き付き、大粒の涙を流して号泣した。ブリュッケちゃんは、不世出の名カルキノスハンター・ヒコヤンの一人娘と言っても、まだ12歳の小学生に過ぎないのだ。 「まだ諦めるのは早いです。オカダさんとカクさん……このくらいで行方不明になるようなペアじゃないですよ」  アディーは姉妹を元気付けるように、優しく豊かな胸に抱き寄せる。 「オカダ君、私には分かるわ。信じている……決してへこたれず、笑顔で全員ここに戻ってくる事を」  スケさんは静かに目を閉じ、洞窟内に閉じ込められた人間からの連絡に意識を集中した。  怪妖洞の周辺は、不気味に蠢く大小のカルキノスの集団によって、まるで戦場のように騒然としたままだ……。

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