〈壱〉魔法少女

 私、【|水鏡 理世《みずかがみ りせ》】は、何の取り柄もない平凡な女子中学生でした。その筈だと信じていました。  あの日、大きな銀毛の猫さんと出会うまでは、確かにそうだったのです。  それは、ある朝のことです。登校の為に私は、いつものように通学路を一人とぼとぼと歩いていました。  すると、不意に男性の声に呼び止められたのです。 「ねえ、君。済まないが道を教えてはくれないかな? 月見駅へは、どう行けば良いのかな?」  気を抜いていた私は、驚いてキョロキョロと辺りを見渡す事となるのですが、声の主を見付けられずにいました。 「下、した。君の足元だよ」  その声に従って、不思議に思いながらも私は、足元の方へと目を向けました。すると、そこには一匹の大きな銀毛のチンチラ猫がチョコンと座っていまして、前脚で顔を洗っているのです。私は目を丸くしました。  その猫さんは全身が銀毛ではなくて、頭から尻尾に掛けて金毛でした。そして可笑しな事に、その猫さんの顔には、お洒落な眼鏡が掛けられてあったのです。  ですから顔を洗う度に、猫さんの眼鏡がずれるのです。それが何とも滑稽でした。 「にょ? ……って、もしかして猫さんが喋ったの!? 嘘でしょう?」  私は、大慌てでスマートフォンを取り出しまして、その猫さんの写真を撮りました。我ながら上手く撮れたと得意です。  ……あ、写真だけ撮っても、猫さんが喋っていたという証拠にはならないか? 動画、動画っと……私がそんな事をやっていますと、猫さんの視線がとっても痛かったです。  分かったから、そんな目で見ないでよ! ですから私は、当初質問された事に対して、お返事をすることにしました。 「えっと、月見……駅ですか? うーん、よく分からないです。エヘヘ♪」  この近くに月見駅なんていう駅は、なかったはずなのです。この展開だと物語、発展しなさそう。ですよね? けれども、違ったのです。 「そっかー。じゃあ、魔法少女に成ってくれるかな? にゃははははー♪」 やはり、先程話し掛けてきた男性の声の主は、この猫さんで間違いない様子でした。  そして猫さんは、突然ありえない提案をしてきまして、愉快そうに笑い出しました。だから、私は……。 「にょぇ? 魔法少女!? へぇ? 何それ……おおぉ、お断りします! って……私、何で猫さんと普通にお話しちゃっているの?」  私は、激しく動揺をしてしまって、変な声を出しつつも何とか断って、深々と頭を下げました。  ……だって、云っている意味がさっぱり分からなかったし、相手が猫さんだったしで、大混乱だったのです。  そうしましたら普通は、物語これで終わってしまうよね? そう思ったのだけど。また、違ったのです。 「うん。じゃーぁ、決まりだね。魔法少女に成ってくれて有難う! にゃははははー♪」  猫さん、本当に嬉しそうに云ってから、また笑い出しました。それはもう高らかに。 「ぇ? 決まりって、何が!? ……ですか? い、今私、お断りしましたよね? あ、えっと……どう致しまして……あれ?」  私が動揺しながら云っていると、眼鏡猫さん深々と頭を下げて感謝の意を示すものですから、私もそんなことを云ってしまったのでした。  ……えっと、あれ? 私、さっき断ったよねぇ? 猫さんには、日本語がちゃんと伝わらないのかな? などと自問をしてみましたが、当然ながら、そんなものに答えなど出ません。  そして、その後も何度か断ってみたものの、猫さんの勧誘がしつこくて……結局、私はゴリ押しに負けて、魔法少女に成ることを引き受ける事となってしまったのです。私って、押しに弱いタイプなのです。  そんなこんなで私は、登校途中に突然、魔法少女に成ることが決まりました。決まってしまいました。  眼鏡猫さんの話では、魔法のアイテムとかを幾つか貰える。って、ことなのだけど、いつ貰えるのかな? それは云ってなかったなぁ。はぁ……こんな状況、溜め息しか出ませんよ。  それと後、魔法少女に変身するには、魔法のティーカップにお願いをしないといけないそうなのです。何だか面倒臭いなぁ。などと思いつつも……早速やってみますね。 「紅茶をコポコポ入れましてー♪ ミルクとお砂糖入れましてー♪ スプーンで、クルクル混ぜましてー♪ 美味しいおいしいミルクティー♪ ……えっと」  私は、不思議なダンスを踊りつつも、魔法のティーポットとやらから、魔法のティーカップとやらへ、魔法ノ紅茶を注ぎ入れてから変身をするのだけど……それはとっても恥ずかしい事ですし、それに大変無駄が多い気がしました。 「美味しくおいしく頂きまーすぅ♪」 最後にそう一言云って私は、それら台詞と一連の動作に恥らいながらも、一口だけ魔法ノ紅茶を呑むのでありました。  すると、ティーカップに触れた唇が薄紅色に色付いて、それから肩くらいまでの長さだった私の黑髪が、黄金ノ巻き髪へと変わって行きました。  続いて私は、全身を黄金の眩き光に包まれまして、着ていたセーラー服が粉々に砕けて消え去って、ヒラヒラお洒落な魔法少女コスチュームへと変わっていきました。  そのコスチュームは、赤いドレスのようなメイド服のような……とにかく恥ずかしいコスチュームなのです。それと……コルセットがキツくってて、とても苦しいのです。  魔法少女に変身した私は、腰くらいまでにその美しい黄金ノ巻き髪を伸ばしておりました。  元々整った容姿だったのですが、変身後のそれは、絶世ノ美女と呼ぶのが相応しい程でした。黑かった私の瞳は、血のように赤く色を変えていました。  美しい巻き髪の隙間からは、白雪の如き肌が覗いていますし、魔法少女のコスチュームは、必要以上に胸元が開け放たれていますし、その裾丈は、地面に着く程に長いのですが、前後中央と前左右、後左右の計6箇所に、切り込みが脚の付け根辺りまで深く入っていました。  ですから、私の胸元も生足も本人の意思に反して、惜しげもなく披露される事となっているのでありました。  それから、長く美しい黄金ノ巻髪と赤いドレスは、自らが生み出している風の影響で、フワフワと上下に|靡《なび》いています。  更には、私の身体は薄い黄金ノ光に包まれている様子です。我ながら、何とも神々しい姿だと思いました。  眼鏡猫さん、わざわざ姿見の大きい鏡を用意してくれまして、私は、そんな恥ずかしい姿を自分でも確認することが出来ました。  けれども変身する度に、一瞬だとしても服が消えて、裸体になるのが正直嫌でした……。こんなの読者サービスとしか思えません! などと考えつつも変身を終えた私は、笑顔で決めポーズをとるのでありました。我ながら、なんて恥ずかしい事をしているのでしょう……。  傍らでは、例の銀毛眼鏡猫さんが大欠伸をしています。……って、誰の為に変身しているのよ!? などと私は思うのだけど、気弱だから言葉に出しては云えません。だから、恥ずかしい決めポーズのまま、ニッコリ微笑むだけです。  決めポーズや、変身前の不思議なダンスに、恥ずかしい台詞の数々、あれは好きでやっている訳ではないのですよ? 全部プログラム的に組み込まれていまして、身体が勝手に動いてしまうのです。←ここ重要です! 「それで猫さん? 私は、この格好で何をすれば良いのかなぁ?」  未だ大欠伸の銀毛眼鏡猫さんに尋ねますと、猫さんは気怠そうに首だけを後ろに振って無言で応えます。  ちょっとッ! 真面目にやってよ! などと思う私なのだけど、やはりそんな強気な事は云えず、ニッコリ微笑むだけで我慢をします。

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