異能者たちの苦悩 | 第二章 バシリスクの回帰
ネームレス

第59話 ルーツ継承

 「彼女。ヤヌダークっていうんだけどね。彼女のファーストルーツはジャンヌ・ダルクなの」  「えっ?! そんなことバラしていいんですか?」  ジャンヌ・ダルクってフランス女軍人で人々のために戦った人だよな。  てかジャンヌの情報だだ洩れ……。  「そこは文化の違いでね。欧米には御名隠しがないの。名前はアルファベットの|羅列《られつ》だから」  「あっ、なるほど。日本に住んでるからそんなこと考えたこともなかった」  アルファベットってABCからはじまってXYZで終わる組み合わせだもんな。  日本だと両親の想いや願いが「|漢字、片仮名、平仮名《じ》」に強く込められる。  こんな子供になってほしいって。  「反対に象形文字から成り立った文化圏では、文字ひとつひとつに深い想いが入る。とくに日本語なんて世界屈指の高等言語だしね。話を戻すわね? その能力者たちを遡っていくと、どこかで能力に目覚めた時期があるの。それがファーストルーツ。かつてはジャンヌ・ダルクも普通の人だったのよ。でも人の希望や祈りつまり希力を受けて能力者になった」  能力者ってそういうことなんだ?  じゃあ、基本的に有名か無名かを問わずに、ファーストルーツになったときの名前が真名になるのか、それを受け継いでいくのが御名隠し。  「シシャ」の反乱の日に九久津が、御名隠しは邪馬台国が発祥って言ってたよな。  ということはファーストルーツが卑弥呼でそのルーツを継承したのが寄白さん。  あの時代に何かがあったんだな。  「じゃあ自分のルーツを探ると、必ずどこかで能力に目覚めた人がいるってことですよね?」  「ええ、そう。今この時代で能力者に覚醒した者以外はね。例えば源義経は能力に目覚めてチンギスハンになった。頼朝の追っ手を振り切るために、仲間たちの希力を得てね」  「えっ?! あの話は本当だったんですか?」  早い話が頼朝と義経って壮絶な兄弟ケンカなんだよな。  兄思いの九久津と真逆じゃねーか……いや、違う、義経も兄の頼朝を思ってたんだ。  頼りになる兄を慕って、でも頼朝と義経のあいだに確執が生まれて、やがて追われるようになった……。  「噂は本当よ。現にチンギスハンの能力を継承した能力者がモンゴルにいるわ」  「でも、それをどうして?」  「これからの説明に引用したかったから。直接の血筋から遺伝として能力を継承することをルーツ継承というの。まあ、これを一般的には転生なんて呼ぶわ。反対にヤヌダークのように時代を経て、つまり生物学的に関係がないのに偉人の能力が発現することを|信託継承《しんたくけいしょう》というの。これは偉人の思念がそれに|相応《ふさわ》しい器を探して同化すること。チンギスハンも同じ信託継承よ」  「じゃあ、僕はその信託継承ってのに近いんじゃ?」  負力を蓄えて悪に染まるモノもいれば、希力を得て能力者になるモノもいる。  案外この世界も捨てたもんじゃないかも。  簡単に解釈すれば、希力も負力も、それに則する|器《うつわ》があれば正義か悪の能力者になるってことだよな、忌具もこのシステムに近いし。  「可能性は高そうね。でも、そうなると沙田くんは|現在《いま》の沙田くんが能力に覚醒したことになる。だとすればラプラスの言葉と整合性がとれない。真名を持つ以上、過去のどこかで能力者になってるはずなんだけど」  校長は静かに目を閉じた。  頭の中をスキャンでもして手がかりを探してるみたいだ。  「そうですよね。やっと、僕のルーツが解りそうだ」  でも校長だいぶ回復してきたな。  俺がここに来たときのしょんぼりが消えてる、あのときはこの世の終わりみたいな顔してたもんな。  やっぱ「|六角第四高校《よんこう》」のことでスゲー怒られたのかな?  「あっ、ごめんね。少し考えごとをしてて」  「あっ、僕は大丈夫です」  校長が目を開いたとき|小会議室《ここ》の入り口から、コンコンと乾いたノックの音がした。  「あっ、はい。どうぞ?」  校長がそう返答した、けれど、ドアが開かれる気配はなかった。  少しの|間《ま》があってから、木目調のドアがゆっくりと開かれた。

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