11.イタ飯

 僕はイタ飯が嫌いです。  あっ、イタリアンは普通に好きです。美味しいですよね。スパゲッティとかピザとか。  嫌いなのは「イタ飯」っていう言葉です。イタ飯っていう人がいるたびになんだかモヤモヤして背筋がぶるぶるってします。  イタ飯ってなんでこんなに不安定な言葉なんでしょうね。おしゃれなイタリアンをどうしてこうも無粋と気恥ずかしさで固めてしまったんでしょうね。  イタ飯っていう人はきっとあれですよ。パスタとかも箸で食べるんですよ。    一番最初にイタ飯って言いはじめた人はきっとちゃきちゃきの江戸っ子ですよ。昔ながらの家系に生まれた長男坊ですよ。厳格で亭主関白な日本男児の父と優しい母の元に生まれた長男坊ですよ。  きっと長男坊が思春期過ぎたぐらいの時に周りでイタリアンが流行りだすんですよ。|女子《おなご》と逢引きっていったらイタリアン以外にありえねえって風潮になるんですよ。  しかし、ちゃっきちゃきの江戸っ子として生まれた長男坊はどうも海外から流入した西洋の文化に慣れないわけですよ。 「てやんでい!こちとら骨の髄まで日本男児よ!!いたりあんみてえな軟派な食べ物食ってたまるかってんだい!!」  父に憧れて育ってきた長男坊はこう言って軟弱な食べ物を寄せ付けないわけですよ。  しかし、そうやって肩ひじ張って生きてきた長男坊にも好きな人ができるわけですよ。  その人物の名は幸恵。幸恵も年頃の|女子《おなご》の例にもれず流行りものや新しいものが大好きなわけで、デートでイタリアンを食べたいと公言しているわけですよ。  それを聞いても「逢引きなんて握り飯でも食ってりゃあ十分でい!」とつっぱねていた長男坊の背中を優しい母が押してあげるわけですよ。「好きな子の望みを叶えるのが本当の男ってやつだよ」とか言って。  長男坊は内心の緊張を押し殺して幸恵の元に向かい、イタリアンデートに誘おうとするわけですが、どうしてもイタリアンという言葉を口に出せない。横文字を使う最後の勇気が|振絞《ふりしぼ》れない。  そこで咄嗟に出た言葉が「幸恵!!おいらとぉ、イ、イタ……イタ飯に行かねえか!?」  これが「イタ飯」発祥の瞬間。二人はイタ飯デートを重ねて幸せになるんですよ。  あれっ?「イタ飯」のことをちょっと好きになったぞ。

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この作品の評価

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なんか風変わりな友達のおしゃべりを聞いているみたいな、不思議な感覚の文体が好き。

2019.06.11 19:34

リトル & とりぃ

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