『不破壊』と呼ばれる男

 |防御一辺倒《ディフェンシブ》  両者、狙いは|迎撃《カウンター》。  先に手を出したら喰らう。  じり…… じり……       じり…… じり……  間合いは極限まで縮まる。  そんな状況で先に動いたのは『不破壊』の方だった。  不意に『不破壊』は後ろに下がった。  ベルトは一瞬、それに気づかない。  ――――否。気づかないどころか、前に出て続けていると錯覚した。  これは技術である。  相手に錯覚を強要させる|技術《テクニック》。  『不破壊』は後ろに下がる動きの最中、腰を僅かに曲げると、頭部と両肩を前方にせり出していた。  これをやられると距離感が狂う。それは、ベルトも例外ではなかった。  だが――――  打撃の制空権からの離脱には、まだ遠い。  虚をつかれたベルトも気づき、前に出る速度を速める。  後ろに下がる『不破壊』に対して、前に出るベルト。  当然ながら速いのはベルトの方……  それを狙われた。  前に出る動作に合わせカウンターが飛んでくる。  (この男、天才だったか!)  ベルトは驚愕した。  後ろに下がりながら強い突きを放つ。言う易し、されど……超がつくほどの高等技術。    溢れんばかりの才能。  絶え間ない努力。  その両方があって初めて実戦で使用される技術だ。  「負けた……」とベルトは小さく呟いた。  対人戦闘における心理戦、技の駆け引きで大差をつけられた。  敗北は否定できない。  「……あくまで心理戦での話だけどな」  小気味好い打撃音が響いた直後、片膝を地面につけていたのは『不破壊』の方だった。  ・・・  ・・・・・・  ・・・・・・・・・  人並みはずれた才能と努力。さらに恵まれた巨躯。  それでいて卓越した技の駆け引きができる男。  それが『不破壊』だった。   ――――しかし、相手はSSSランク冒険者。  日常的にモンスターと戦う事で身に着けた反射神経を動体視力は『獣じみた……』などの比喩ですら空しくなるほどのものだった。  闘技者では――――否。  人間では回避不可能と思われた迎撃を華麗に避けると、相手の腹部に一撃。  ≪|致命的な一撃《クリティカルストライク》≫  もはや、ベルトの代名詞とすら言える衝撃を叩き込む防御不能技。  『不破壊』の体内は駆け巡った衝撃は、人体の弱点である心臓に強打を放った。  さらに衝撃は脳にまで移動。激しい振動で脳を揺らし、強制的に脳震盪を引き起こした。  モンスターを絶命させるための技。  人間がそれを受けて無事ですむわけもない。  まして、戦闘続行なぞ……とても、とても……  だから、予想外。  膝をついていた『不破壊』の巨体が起き上がると同時に拳を走らせる。  下から上へのアッパーカット。  紙一重のギリギリで回避したベルトはヒヤリと冷や汗を垂らす。  「へぇ……本当にタフなんだな」  ベルトは焦りを隠すように声を発した。  「心臓と脳を攻撃したつもりなんだが?」  「人の肉体は鍛えられない場所などない。脳や心臓はもちろん……目や金玉だって、進化を促す鍛錬を繰り返せば、細胞レベルで強くなる」  「ソイツは凄いな」とベルトは大きく踏み込んだ。  ≪|致命的な一撃《クリティカルストライク》≫  遠当てバージョン。  衝撃を操る技が、今度は離れた位置にいる『不破壊』を襲う。  不可視の打撃を受けた『不破壊』の頭部が後方へ仰け反った。  「ここ!」と一気に間合いを詰めたベルトの足が跳ね上がり、『不破壊』の頭部を捕らえた。  |上段回し蹴り《ハイキック》である。  しかし――――  「本当にタフすぎじゃないか?」  「それ以上の誉め言葉はないね」  上段回し蹴りから伝わった感触は巨木を蹴ったかのようような不動性。  クリーンヒットのはずが手ごたえは皆無。  さらに『不破壊』の腕はベルトの足を掴んだ。

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