試合開始 『不破壊』とベルト

 伝説を見に来た。  あのベルト・グリムが見える。  曰く、単純戦闘能力な最強。勇者より、魔王よりも強い……  おいおい! どんだけ強いんだよ!?  その気持ちはベルトが闘技場に姿を表した瞬間に爆発する。  拍手。  人は感情が最大限まで高まった時、何らかの方法でそれを表したいのだ。  この日の観客数、興行発表で30万人。   普通、興行発表の観客数は水増しするものだ。だが、この日は違った。  30万人。  その数は一般的な都市の人口と同じ位……  それが誰ともなく、拍手を発せられた。  その熱量は具現化したエネルギーのようにベルトに思わせた。  ベルトの格好。  闘技場の規定により、上半身は裸。下半身は腰布を巻きつけている。  しかし、特記すべきは頭部にある。  暗殺者における基本――――  人目に表れるべからず  それを守るべき……というよりも妥協する形でマスクが被られている。  以前使った口を隠すだけのマスクではない。  目元と口元、それと髪を外に出すタイプのマスクだ。  ベルトが闘技場の中心に立つと、2人の審判が左右からお茶をかけられる。  この奇妙な風習は、不正を洗い流すための行い……らしい。  事実、戦いを有利にしようと体に油を塗る輩もいる。  この茶の種類は油を落とすのに効果的……らしい。  全身が濡れると体を丁寧に拭かれる。足の裏や耳の裏、ワキまで確認された。  ここまで来ると暗殺者のベルトが使う毒対策の意味合いが多いのだろう。  しかし、ベルトの毒は体内で生成している。   いざ、試合が始まれば毒の使用は当事者でしかわからない。  やがて、観客の長い拍手が止み、静寂が支配する。  この試合を仕切る|主審《メインレフェリー》が姿を表す。  特別主審 キング・レオン  くっくっくっ……と笑いながら近づく。  「勝った方が俺を戦う。いいな?」  ベルトは頷く。  一方で『不破壊』は神妙な顔でレオンを見返していた。  もしかしたら、この男もレオンと浅からぬ因縁があるのだろう。とベルトは思った。  「それでは……」  じっくりと言葉を溜めるレオン。  上げた右腕を手刀のように振り落とすと――――  「試合開始!」  レオンの大声が闘技場に響いた。  ・・・  ・・・・・・  ・・・・・・・・・  まるで古びた弓の弦。  限界まで張り詰められて、いつプツリと切れてもおかしくない緊張感が支配している。  『不破壊』 発達した筋肉のラインを体を形成している。  大柄な肉体に対して小さくコンパクトな構え。  両腕の位置は体の中心を守るように、やや低め。  強引に顔面を狙えば一撃は入るかもしれない。そう思わせるが、『不破壊』もそれは折込積みだろう。  無理に行けば、強烈な反撃を受けるのは必死。  対してベルトの構え。  両手の掌を相手に見せるように構えている。  膝を軽く曲げ、腰を落として――――左右の機動力は捨てている。  前後の動きも制限されている。  キング・レオンとの邂逅時に見せた構えだ。  両者ともに防御的な構えだった。  試合が開始しても激しい動きはない。  じり…… じり……       じり…… じり……  ゆっくりと間合いを詰めている。  別の選手たちが同じ試合展開を行えば、たちどころに観客たちから不満の罵声を浴びせられるだろう。  しかし、両者の緊張感が伝わっているのか? 観客たちも知らず知らずに拳を固め、手に汗を浮かべている。  やがて打撃の間合い入る。  間合いは魔会い。  僅かでも距離を見間違えると悪魔に会うと言われる格言だ。   だが、それでも互いに攻撃を交わせない。  突きや蹴りの間合いは潰され、肘と膝……それも越えて組み技の間合いへ。  先に緊張感に耐えられず、手を出したのは――――  『不破壊』の方だった。  

ブックマーク

この作品の評価

2pt

Loading...