幻の戦いと再会

 ベルトは夜を歩く。  神々しい人工光を背中に浴びて、人気がない方角へ。  都市部の外側。360度、見渡す限り砂漠が広がっていた。  ――――いや、背後には町の光、前方には小さな|水場《オアシス》。  そこに座り込み、瞳を閉じた。  思い浮かべるのはキング・レオン。その全盛期の姿。  ここはオアシスではなく闘技場。  存在しないはずの観客の声援が聞こえてくる。  ・・・  ・・・・・・  ・・・・・・・・・  どれくらいの打撃を掻い潜っただろうか?  一撃も受けずに 迎撃カウンターを放ち続けた。  乱れに乱れた呼吸。滝のように溢れ出す汗。  果たして、その対価は――――  目前のレオンは全身に打撃を浴びている。  あと一撃を入れれば……ベルトは逸る気持ちを抑える。  そして、その時は来た。  機動力を削ぐのが目的なのか? それにしては不用意すぎる|下段回し蹴り《ローキック》。  ベルトは大きく前に出て、蹴りの威力を半減させると同時に拳を走られた。  手ごたえは十分すぎるほどの報酬。  受けたダメージの深さから下半身の踏ん張りが効かないのだろうか? レオンの体は沈んでいく。  勝った  そう確信してトドメの追撃を振るおうとした瞬間だ。  ベルトの足が消失していた。  その理由はわからない。 まさか、先ほどの蹴りが……  レオンの蹴りが切れ味を帯びて、ベルトの足を切断したとでも言うのか?  それとも、ベルトが想定したダメージが自身の想像力を凌駕した結果なのか?  そして、ベルトの動きが止まった瞬間――――  沈みかけていたレオンの体が止まった。  違ったのだ。ダメージによって倒れていく……のではない。  むしろ逆。浮上するための沈み込み。  飛び上がるように間合いを詰めてくる。  そして振りかざすのは肘。  肉切り包丁と例えられるレオンの肘だ。  人体でも有数の強度を持つ肘は、特にレオンのソレは例え通りに人の体を簡単に切り裂く。  その衝撃を頭部へ受ける前にベルトは瞳を開いた。  目前にはレオンはいない。  ここは闘技場ではなく砂漠だ。  ベルトはため息をつく。深い、深いため息だった。  今まで幾度となく想像したレオンとの戦い。  果たして、両者の差は縮まったのか? それとも――――  「それでどちらが勝ったのですか」  ベルトは振り向かずに返事をした。  「俺の負けさ……メイル」  ベルトが振り返るとメイルがいた。  彼女は「どうして、私だと……いえ、いつからついて来てると?」と少し驚いた。  「最初からだ。視界を遮る物がない砂漠で尾行なんてできるわけがないだろ?」  ベルトは少しおどけた感じだったがメイルは知っている。  追いかけている間、ベルトが後ろを振り向いた事が一度もないという事を……  「それでどうした? マリアの護衛を頼んでいたはずだが……あぁマリアも近くにいるのか」  「はい、私もマリアも義兄さんの様子が気になってしまい……」  「……そうだな。少しだけ猛ってしまった」  ベルトは立ち上がり、メイルの頭を軽く撫でた。  「帰るか。マリアも退屈しているだろ」  「はい」とメイルはなぜかうれしそうに返事をした。  そうして帰宅の途につく最中……  都市の中心部。多くの人が行きかう道を進む途中に……  ベルトは不可思議な経験をした。  不意にすれ違った女性からした匂い。  それは血と鉄と……甘い毒の匂いだった。  ベルトの技量を持っても、すれ違うまで、その女性が暗殺者だと気づかなかった。  一瞬の寒気に襲われながらも振り向く。   一体、何者か?    だが、彼女は幽霊だ。間違いなく……そのはずだった。  人ごみに紛れて気配と姿を消した彼女の正体。  それを口にしたのはベルトではなく、彼と同時に振り向いたメイルの呟きだった。  「……姉さん?」

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