天空高く……

 出発日を教えるのを忘れられていたベルト。  当然ながら出発の準備なぞできていない。  旅行というのは計画がギュウギュウに詰められていているものである。  時間が遅れれば、遅れるほど|取り戻し《リカバー》は難しく――――いや、取り戻しは不可能と断言してもいい。  ではベルトたちはどうしたのか?  大幅な計画変更。陸路は空路へ変更した。  そう……  空路である。  「これは流石に凄いなぁ……」とベルトは珍しく賛辞の言葉を呟いた。  「そうでしょう」とマリアは自慢げだった。  それもそのはず、ベルトたちが乗っているのは……  「我がフランチャイズ家が誇る|竜騎兵《ドラグーン》です!」  マリアが言うとおり、ベルトたちは竜に乗っていた。  「正確にはワイバーンだがな」  「むっ……ずいぶんと細かい事を気にしますね」と口を尖らせた。  ベルトたちはワイバーンの体にぶら下げられた|篭《カゴ》に乗っている。  本来は移動用ではまく物流を補う輸送用に使われているのだろう。  乗り心地は良い……とは言い難い。  ベルトはワイバーンと篭を繋げるロープに触れる。  鉄を細く加工した物を綱つなのように編みこんで作ってたロープのようだ。  まず普通の方法で切断される事はないだろう。  「乗り心地は兎も角、安全性は高そうだな」   そういうベルトに対してツッコミが入る。  「に、義兄さん、本気ですか?」  そう言ったのはメイルだった。  「こ、こんなカゴだけで人を運ぶなんて安全性なんて無視しているじゃないですか!」  悲鳴が混じった叫びを上げている。  出発時から、こんな感じだった。 どうやら高いところが苦手なようだ。  「あら? 嫌なら降りてもいいのですよ。……そもそも貴方が同行する予定はなかったのですけど?」  何やら棘のあるマリアの言葉に対してメイルは「――――ッ!?」と一瞬だけ険しい表情を見せた。  「いえいえ、私は義兄さんの家族であり、パートナーですから……どこに行くにも一緒なんですよ」  不穏な空気。  両者の視線からバチバチと幻聴が聞こえてくる。  そんな2人の様子にベルトは気がつかない。  目前に広がる雲海。   標高の高い山々が海に浮かぶ島のようにも見える。  そして、遮る物のない赤い太陽。  風景に心を奪われていた。  しかし、それをベルトは不思議に思っていた。  (今までの旅で空路を利用した経験は少なくない。それなのに……どうしてだろうか? 少しだけ、心が弾んでいる)  暫くして、その理由に気づく。  (あぁ、今までは景色を楽しむ余裕もなかったのか)  ふっ……とため息のような笑いを零してた。  気がつけばメイルとマリアがベルトの顔を凝視していた。  「……どうした? 2人共?」  「……いえ、なんでもありません」と返事をしたメイルの顔は赤く染まっていた。  それに対してマリアは――――  「……見蕩れていたのよ。貴方の笑顔に」と素直に返した。  なぜか、メイルとマリアは睨み合いを再開した。  「やれやれ」とベルトは呟きながら下を見た。  下には砂漠が広がっている。やがて――――  「2人共、じゃれ合うのは良いが目的地が見えてきたぞ」  砂漠の中で不自然に都市が見えてくる。  封印するかのように第五迷宮の上に建造された人工娯楽都市 オリガス。  高い上空からはその代表的な観光地である巨大な闘技場が一際目立っていた。  

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