ベルトVSシルフィド

 (まるで隙だらけだ)  無防備に歩いて間合いを詰めてくるベルトへの感想だ。  どう木刀を振るっても一撃は入るだろう。  木刀での一撃。しかし、木でできた剣とは言え、当たれば肉は潰され、骨は折れる。  だが、目の前にいるのは人間は、単純戦闘能力だけなら人類最強。  あの勇者や魔王よりも上だと言われる男だ。  倒せるイメージなど沸いてこない。  まるで巨大な岩山を殴るような……絶対に倒れないとある種の信頼。  鼓動が高まっていく。緊張によるもの? それとも極度な興奮状態?  けれども、過去に例がないコンディションの良さ。  限界まで張り詰められた集中力は、自身の体の情報を鮮明に伝えてくる。  心臓の鼓動から全身に流れる血液が感じられる。   皮膚から感じられる風――――いいえ、空気の流れですら肉眼で捕らえれるだろう。  情報過多  ダメ。多すぎる情報は、マイナスに働く。  1つ1つ情報を遮断していく。  今、世界には自分とベルトしか存在していない。  そして、放つのは――――今!  高速で放たれた最速の一撃。  (捉えた!)  シルフィドは確信する。  しかし、ベルトの体がブレて見え――――  「……消えた?」  シルフィドの剣は空を切った。  まるで幻覚でも見せられたかのようにベルトの姿は消えていた。  「見事な太刀筋だった。避けれる者はいないだろう」  思わず「それじゃ、避けた貴方はなんですか?」と反射的に問いかけたくなる衝動を飲み込み、シルフィドは声がした方向を見た。そして驚愕する。  ベルトが立っていた場所はシルフィドが振るった剣の先。  剣の上に立っていたのだ。  (重さが伝わってこない! 魔法? ……いや、仙術の類?)  未知の現象。物理法則に逆らうような神技。  それを目の前にした人間は全身に震えが駆け抜けていく。  トンと何事もなかったかのように地面に着地したベルトは―――  「次は受けるから、この腕に打ってくれ」  そう言って右腕を上げた。  だが、シルフィドは動揺する。   (魔法で強化されてる様子もない。いくら鍛えていても生身の体じゃ……えぇい! ままよ!)  野太い風きり音と共にシルフィドの木刀はベルトの腕を打ち抜いた。  今度は、確かな手ごたえ。  だが、ベルトの腕は折れた様子がない。  「うん、威力も申し分もない。相手が岩でできたゴーレムでも打ち砕けれるだろう」  またしても「それじゃ、受けて無事な貴方は……」とツッコミそうになる衝動をシルフィドは飲み込んだ。  その様子を感じとったのだろう。ベルトは――――  「あぁ、今のは腕で受けた衝撃を地面に流し込んだだけだ。ほら、少しだけ俺の立っていた場所がえぐれているだろ?」  どうやったら、体に受けた衝撃を地面に肩代わりさせれる?  シルフィドは、今まで積み上げてきた常識というものがガラガラと音を立てて崩れていく感覚に陥っていた。  「今日中に俺が留守の間にしてもらう店番の説明と戦闘訓練のカリキュラムを作成するから……とりあえずは、これからよろしくだな」  そういってベルトが腕を差し出した。  一瞬、それが握手だとわからなかったシルフィドだったが……  「こちらこそ、ご指導ご鞭撻の方をお願いします」とぎこちない笑顔でベルトの手を握った。  そのあと――――  「できたら、手加減の方もお願いしますね」と付け加えた。

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