海賊たちの声 | 第三章 真赤な
時津彼方

3、真実の黒

「待て! 上の瓦礫がまずい。もうすぐ落ちてくるぞ!」和哉が叫んだ。 「速くいけば間に合う! 速く来い!」  この時、『ジシン』があった俺は、見つけたルートから瓦礫が落ちるまでにみんなが逃げ切れない未来が見えていた。 「頼む! 来てくれ!」  仁の叫ぶ声が聞こえたが、今はみんなが助かるためにこうするしかない。 「俺はもう火に突っ込む。多少のやけどなら、痛くもかゆくもない!」 「もういい! 死んでも知らないぞ!」  目の前では、がれきが上から落ちてくるのが見える。和哉達は素早くいってしまった。  もちろん、俺は炎の中に突っ込む気はなかった。ただみんなが先に行ってくれたらよかったのだ。 「たっくん!」  楓がこちらを向いていた。 「お願い! 私と一緒に来て! じゃないと死んじゃう!」 「大丈夫、俺は強いから、火なんか恐れない、キャプテンだからさ」 「だったら私も残る。たっくんが行かないなら……」 「行け!」  俺は叫んだ。楓はびくっとした。そのすきを見て、俳句の子が楓の手を引いた。彼女の顔は涙でぐしゃぐしゃだった。恐らく、俺の考えていることが分かったのだろう。 「生きろ!」  それが俺の最後の“海賊“としての声だった。 「よし、あとは天の神様の言う通り!」  そう言って、俺はみんなの後に続いて走り出した。しかし、言い争っていた時間があだとなったのだろうか。上から大きめの鉄骨が落ちてくるのが見えた。このままでは前を走る二人にあたってしまう。  そう考えた瞬間、俺はこれ以上考えるのをやめた。自分の出せる全速力の力で走って、二人を全力で突き飛ばした。 「あっ」  ガレージから男子が二人、女子を抱える形で出てきた。 「みんなー!」  仁が叫んだ。秀人たちは束の間笑顔になったが、その直後、何者かに後ろを押され、女子二人が前に転んで出てきて、ほぼ同時にホールは大きく崩れた。その光景は、大人でさえ衝撃的な光景だったので、小学五年生の子供の中には倒れる子もいた。秀人は唖然としていたが、隣で弘子が倒れ掛かってくるのを感じ、正気を取り戻した。そして、一人足りないことに気づいた。 「啄木……」 すぐさま救急隊員の指示に従って、その場の人々は避難を始めた。 「こら、君! 早く逃げないと巻き込まれるぞ!」  秀人は救急隊員の一人に手を引かれ、その場から遠ざけられようとしていた。その時、がれきから外に伸びていた手が見えた。 「一人で大丈夫です! でも、まだあそこに友達がいるんです!」 「何だと!」  救急隊員はガレージのところを見た。そして手を発見した。 「わかった。すぐ逃げるんだよ」 「はい!」  救急隊員はすぐさまほかの隊員に指示をして、救助活動に向かった。それを確認して、秀人は弘子を背負って走って逃げた。もちろん、秀人は怖くなかったわけがない。こんな記憶、すぐ消えてしまえばいいのに、と思った。だから、後ろでさらに瓦礫の崩れる音がした時も、振り返ることができなかった。 夕日に向かって走った。その赤光は目に刺さって痛かった。  一通り子どもの健康状態を見終えた後、保護者も集められて先生から話がなされた。終わって、全体が解散になった後、『ブックマスター』の四人は病院で検査を受けるために集まった。 「なあ、タクは、もちろん大丈夫だよな」 口を開いたのは和哉だった。 「そうよ、きっと大丈夫よ。啄木君だもん。次会う時はこんなこと、忘れているに決まってるよ」  若葉が足をさすりながら言った。 「そう、そうだよ。きっと……」 「あのさ」  秀人が女の子二人を連れてきた。共に脱出した姉妹だった。 「さっき見てしまったんだ。人の腕が瓦礫の中から飛び出ているところを」 「そんなの嘘や! 嘘に決まってる!」 「でも……」 「あー、あー、聞こえへん。なんも聞こえへん。爆発音で耳がやられてしまったみたいや」  しばらく沈黙が流れた。 「君たちかい? 病院で検査を受けるのは」 「……はい、そうです」 「準備ができたから行こうか。親御さんも待ってる」  その時、隣で担架が通った。毛布にくるまれた、啄木が隣を通り過ぎた。 『たっくん!』 『啄木!』  彼は目を閉じて、地蔵のように固まっていた。みんなは彼の名前を何度も呼んだ。遠くから姉妹は、その光景を見ていた。姉の有海は、またこの光景か、と思って泣いていた。  少し離れたところから見ていた秋奈は、それを残酷なものにしか見ることができなかった。啄木君。彼はもう死んでしまったのだろうか。    アトリアルホール爆破事件のおよそ一週間後、子どもたちは体育館に集められた。  校長先生が前のステージの上に立ち、神妙な面持ちで話を始めた。 「みんなも知っているだろうけど、先日起きた『アトリアルホール爆破事件』の時、本校五年二組の児童が劇を披露しに行っていたんです。実は、その爆発にもう転校しているはずの町田啄木君が巻き込まれました。亡くなりました」  子どもたちの沈黙は、より一層深いものになり、外を通る車の音がかすかに聞こえるだけだった。  ちょうどその時、五年二組は教室に残っていて、同じ話を担任の先生からされた。先生は、泣いていた。仁と楓は呆然とし、若葉は涙を流し、和哉は叫んだ。各々の感情は、もう正常なものではなかった。そして、精神面を考慮して、一週間学級閉鎖となった。  町田啄木が死んだ。小学校サイドでは、そう思われていた。  しかしその数日前、まだ彼が意識不明だと報道されていた時のこと。  病院にて彼は目を覚ました。

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