過去と今

 その後……竜族の長が一柱。神竜との戦いへともつれ込んだが、共に神に近いと謳われた剣神と神竜の戦いに決着は付かず。  互いの間で条約が結ばれることになる。オルエンは武装を解かれず、旗をかかげることは許されたが所領で4000年の戦闘不参加を誓った。対して竜族は戦地になった要所の砦……コルムベーゼへの進軍を禁じられることで釣り合いが取られた。 「……というわけだ」 「スケールが大きすぎていまいち分かりにくいです。あと、何か色々と省略してませんか? 前半に対して後半がやたらに適当です。そして後半の方が重要そう」 「うん……面倒だったから、つい」  少女を助けた剣神は、少女からの助けの要請をあっさりと承諾した。見返りに何も持っていないので、ダメ元での懇願であったのだが二つ返事で引き受けたので少女の側がむしろ毒気を抜かれた気分になった。  廃城を出た二人連れは、元の村へと向けて足早に進んでいる。その最中で廃城の恐ろしい神様は身の上話をしてくれたのだ。 「この手の話は世の中でありふれているものだろう? 君の村が賊に襲われているのだというのと同じくらいに……まぁ同族同士で争う感性は我々には無かったがね」 「全然ありふれてません。それよりも、もう少し急ぎませんか? 頼んでいる身で厚かましいの承知の上で」 「ああ……そうだった。君たちは死ぬと中々に復活できないのだったな。ついつい自分の尺度でものを測ってしまう……担いででも急ぐかね?」 「中々にではなく、生き返ったりとかおとぎ話でも……わわっ」  逞しい腕が村娘を遠慮なく抱き上げて、疾走しだす。物語のお姫様になった感覚……などと思えたのは一瞬だけだったが。  凄まじい速度で少女の視界が乱れだす。流れていく木々があっという間に平原へと変わり、残像だけ残して消えては次の景色へと変わっていく。 「ちょっ……まっ……はやっ……!」  風圧でちょっと人とは思えない顔になるが、オルエンは全く気にしないで走り続けた。賊のことも村のことも頭から消え失せそうな勢いを味わう時間は少女の体感時間では永劫のようだったが、実は一瞬だったらしい。 「村っぽいのみーつけたっと。着いたがここで合ってるか?」 「おえぇえっ……はぁはぁ……ここ……ここです……賊に占拠されてしまったんです……少しでも生き残った人がいれば……助けて下さい……」  ふむ。と考えてオルエンが村を見渡す。  質素な木で出来た家。わずかな家畜。小さな畑。そのいずれもがオルエンの記憶には無い文化だった。  それもこれを作ったのが|有限者《モータル》だと考えれば好奇心が湧いてくる。なにせ彼の記憶で言えば|有限者《モータル》はこうした創造ができる種族という覚えがない。  気配で判別はつくものの、容姿も文化も大分変化をしていた。 「君に似た雰囲気の者もわずかにいるな。血の匂いがする者が賊か。確認するが、君の氏族が彼らに襲われて然るべき理由は?」 「ええっと……多分無いです。最近見かけるようになった、という話を聞いたばかりだったので……揉めたことさえ無かったはず……」 「ならば引き受けた。君を助ける代価として……」  緊迫した雰囲気が突如として戻ってきた。  緩くなってきていたが、村は惨憺たる有様なのだ。そして恐れられる神に助けを請うた。その代償は…… 「君と、そして私に助けられた者から出来うる限りの話を聞かせてもらう。下らないことから大事なことまでを全て、だ」 「え? それだけで良いんですか? お金とか……」 「……なんだ、そのカネというのは? 必要なものか?」 「えぇ……いや、どうなんでしょう?」 「そのあたりのことをまず聞く。私が無為を過ごしていた間に世界は随分と様変わりしている。いいや、変わり《《すぎている》》。余りにもおかしい」 「おかしいって何が……」  聞こうとした瞬間にオルエンは消えた。  ふざけていようと、間が抜けていようとも彼は剣神と称された|無限者《イモータル》だ。これから行うことに躊躇はない。そして村で行われていた行為それ自体にさして感じ入ることはないだろう。   /    村の中に入る。  例え同胞であろうと我が動きを完全に見切れるものはいない。そして気配から中にいるのは有限者《モータル》だけだと既に分かっている。  そして、己に太刀打ちできる者もなく総じて脆弱な類しかいないことも、だ。ゆえにここで行われるのは戦いではなく、虐殺と呼ばれるべきものとなる。  仔細を語る必要は一切ない。  髭を三つ編みにした男が、片手を切り落とされた老人を前に笑っている。すれ違いざまに処分した。  跳躍すれば子供を殴って遊ぶ男が見えた。顔を確認する前にその頭に着地すれば、既に男は事切れていた。  角に似た盃で何かを飲んでいる男が二人笑い合っている。笑顔のまま二人共、頭部だけどこかへ飛んでいった。勢いよく切りすぎたようだ。  小さな村の中心で行われていた《《こと》》は流石に少し愉快ではいられなかった。通り過ぎながら賊と判る男たちの四肢をもいだ。痛みが長引くように。  一つだけ他の家より大きい家の中に入る。白髪と白ひげの男が木の床にひれ伏して、残忍そうな顔つきの賊が椅子に腰掛けている。  扉を開けたこちらに気付いたが、判断するまでの時間が足りなかったのだろう。相手が眉を上げた瞬間に、顔面へと足裏を叩きつける。  古傷で引きつった顔面を痙攣させた男が床に転がる。先ほど一瞬目が合ったが、多少は知性の高そうな賊だ。これを生かしておけば有限者《モータル》との取引が可能になるかもしれない。  さて、後は家畜を運んでいた連中を斬れば終わる。 /  すっかり気が抜けてしまった。  草原にへたり込んでいると、村から豆粒のような影が飛んでくる。多分というか確実に剣神様だ。神話の神様のような飛行感でも無ければ、天使のような羽根があるわけでもない。  単なる超すごいジャンプのようである。遠くから見ているとぴょいーんとした感じでひどく間抜けだった。ぴょいーん。  行くときは近くだったので、突然地面が破裂したようだったが……本人の性格もあってやっぱり変だ。 「はぁ……父さんと兄さんが無事かどうかも分からないのに……結構冷たいのかな、私? うわっぷ!」 「おや……勢いをつけ過ぎた。すまないな、君」  着地の衝撃で地面が抉れてホコリを立てた。思わずむせて涙が出る。 「けほっ、ごほっ! ……どうでした村は?」 「日を置かずに行ったのが幸いしたな。負傷はともかく命はあった者が多い。ああ、君の父と兄もいたぞ。生きてはいる」 「本当ですか!? すぐ行きましょう! さぁさ、剣神様! もう一回ジャンプです!」 「我が言うのも何だが、俺の知る有限者《モータル》とは随分とかけ離れているな君は。いや、それを言うのなら……」 「コルム村の救い主なんですし、早く行っちゃいましょう!」 「……ん? コルム村? どこかで聞いたような響きだが……響きと言えば君の名を聞いていなかったな」  村の名前でなぜか考え込む剣神様に、私は名乗っていなかった非礼を詫びるとともに改めて名乗った。 「私はソルトアと言います! 改めて助けてくれてありがとうございます!」  私の名に強すぎる剣神様はなぜか驚いた顔をしていた。  

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この作品の評価

8pt

ソルトア嬢とオルエンの二人旅。……いろいろと不安材料しかないという。彼らの旅路はどうなるのか、今後の展開も楽しみです!

2019.04.06 18:33

夏月凛太郎

1

ぐいぐいいきますねぇ、ソルトア嬢。そして誰も彼女を止められないという……。

2019.03.24 14:25

夏月凛太郎

1

物怖じしないですね、ソルトア嬢。剣神様相手にずけずけと物を言う……。快活なヒロインですね。

2019.03.18 11:03

夏月凛太郎

1

ソルトア嬢の名になにかあるのだろうか? 続きが気になりますね。

2019.03.14 14:39

夏月凛太郎

1

「かつての戦い」まで読みました。 壮大な物語!おもしろかったです。

2019.03.12 13:49

夏月凛太郎

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