ありす紅茶館でお茶をどうぞ♪ | 第5章 ウサギ男子のティーカクテル(夏向け)
かがみ透

第23話 ウサギ男子のティーカクテルその1

「どんな人だったの?」 「はい、年齢不詳で、ウサギっぽい雰囲気の男性《ひと》でした。それで、なんだか気が合っちゃって」  にこにこしているリゼを、意味不明な目になって、なぎは見た。  なにを言ってるんだろう? 「また来るって言ってました」 「大丈夫かしら? 後から講習料よこせとか言われないかしら?」 「え、アズサに色々紅茶のことを教えてもらって、そのお礼だって言ってましたから、お金取るような感じではありませんでしたけど」  リゼとなぎがそんな話をしている間、紫庵がテーブルでめそめそ泣いている弥月の前で足を組み、呆れた顔で話しているのが聞こえてきた。 「だいたいなー、胸に注目してるようじゃ、お前まだまだお子サマだよ」 「お前だって、キレイなお姉さんが好きじゃねーかよ!」 「女性の色香は、そこだけじゃないんだぜ。うなじとか、足首とか……」  こっちも、なにを言ってるんだか。 「ナギみたいなコドモと違って、ハナちゃんはオトナだった。しかも、可愛かったんだよ……」  はっきりとそう聞こえたなぎには、ふつふつと怒りが込み上げて来た。 「どうせ、わたしはコドモですー! すみませんでしたねっ!」  紅茶のカクテルをリゼが作る間もなく、なぎはドカドカと足音を立てて二階へ行ってしまった。 「おい、お前、なぎちゃんがコドモだったって、どういうことだよ?」 「シャワーした後、見たら……」  紫庵が血相を抱え、リゼも青くなる。 「お前となぎちゃんがシャワー浴びるようなシチュエーションに、どうしたらなるんだよ! まさか、お前、旅行なのをいいことに……!」 「違うよ! オレとなぎが一緒にシャワー浴びるわけないだろ? どんな耳してんだよ」 「だって、《《見た》》って!」 「タオル巻いたとこ見ただけだよ」 「それにしたって……! ま、まさか、その後、無理矢理……!」 「変な想像するなよ。オレはコドモには興味ないって知ってるだろ! ああ、ハナちゃん……!」  弥月はテーブルに突っ伏し、大きく溜め息を吐いた。  翌朝、ありすと一緒に朝食をとりに、なぎがぶすっとしたまま洋館のダイニングに行くと、弥月が緊張した笑顔で迎えた。 「……なによ?」 「リゼに怒られて、紫庵にも殴られた」  頭をさすっていた弥月が、最敬礼以上に深々と、身体を前に倒した。 「散々失礼なこと言ってスイマセンでした!」  じろじろ弥月を見下ろしてから、なぎが「しょうがないわね。もういいわ」と呆れて言うと、弥月は、「やった!」と笑顔でリゼと紫庵を見た。  リゼも紫庵も、「そうじゃないだろ!」と睨む。 「一瞬の旅行だったけど、それでも得るものはあったわ。グアムと沖縄、南国に共通するフルーツで、マンゴーとかパイナップル、ココナッツを使ってみたらどうかと思って」  気を取り直したなぎが、朝食後に提案した。 「そうそう! オレもハナちゃんから教えてもらったけど、ココナッツは粉のものとフレークがあって、フレークの方は炒ったら香ばしくて、また別の美味しさがあるんだって」  通常のテンションで、弥月が言った。  なんとか立ち直ってくれたなら良かったと、なぎは思った。  花火のような一瞬の恋だなとも思った。 「それとね、沖縄の黒糖をコーヒーに入れると美味しかったから、紅茶にも入れてみたらどうかと思って」  淹れたてのアッサムティーに黒糖を入れ、ホットとアイスティーで試すと、リゼも紫庵も目を見張った。 「すごいコクだね!」 「深みがあって、美味《うま》いな!」  なぎは嬉しそうに二人を見て、ありすの方も見た。ありすは、黒糖入りのアイスミルクティーをストローで飲み、満足そうに微笑んだ。  逆さになっている英字新聞から目を離さない博士は、「コクがあるが、後口はサッパリじゃな!」と言った。 「そうなんですよ、博士! そこがわたしも気に入って。アッサムのミルクティーと合わせると、黒糖が甘ったるくはならなくて、思った以上に美味しかったんですよ!」  「これに、シークワーサー果汁を入れたら、さらに沖縄の味になるぜ!」  弥月が、小さい瓶に入った、からしと似た黄色い果汁を、アイスティーの中に垂らした。 「……ちょっと酸っぱいんじゃないか? お前、入れ過ぎだろ」  飲んだ紫庵が顔をしかめる。 「いいんだよ、このくらいの方が、……うう、ハナちゃんを思い出す。涙の味だぜ……」  鼻をすすり始めた弥月の横で、紫庵が首を傾げた。 「涙の味って、《《しょっぱい》》んだろ? 《《酸っぱい》》のは違うだろ」 「いいの、酸っぱくて! オレには、これでいいの!」  なぎが飲んでも酸味が強過ぎた。  「お客さんに出すには、果汁の量は控えよう」と、紫庵、リゼ、なぎが目を合わせ、暗黙の了解となった。 「シークワーサー果汁を入れるなら、それを引き立てた方が良いから、茶葉は香りに癖がないニルギリ、ティンブラ、キャンディあたりがいいかも知れないね」  リゼが言うと、弥月は、提案が受け入れられたと誇らしい顔になったのだった。  朝食後早々に、例の客がやって来ると、リゼが快く迎え入れた。 「ユウさん、早くから来てもらっちゃって、ありがとうございます!」  リゼから聞いていたように、一見すると若いが、落ち着いた雰囲気でもある整った顔の男性だ。  派手ではない服装に、清潔感のある爽やかさをまとっている。親しみやすい自然な笑顔から、なぎのように男性からセクハラを受けた女性から見ても怖くはなく、構えずに話が出来るタイプであるかも知れない。  確かに、リゼの言うように、優しそうな雰囲気からウサギ系で、年齢不詳だな、と思った。 「きみが、梓さんのお孫さん?」 「あ、はい。山根なぎと申します。留守の間に、うちの従業員がお世話になったみたいで、ありがとうございました」  深く頭を下げると、ユウと呼ばれた男性は「いえいえ」と手を振って笑った。 「こちらこそ、梓さんの紅茶が美味しくて長年通っててね。もともと紅茶好きでしたが、梓さんのおかげでさらに好きになったもんですから、感謝してるんですよ。時間もあんまりないだろうから、とりあえず、ささっと教えちゃっていいかな?」 「はい! 是非!」  そう元気に返事をしたのはリゼだった。 「昨日と同じで、シェイカーとかの道具は使わなくても出来るカクテルだよ」  紫庵が、店にある酒をテーブルに並べる。  赤・白ワイン、ブランデー、ウィスキー、梓が昨年梅の実を浸けて作った梅酒だ。  既に、春に出した桜アイスティーには、白ワインを少しだけ使うが、夜に出すカクテルともなると、多少アルコールの割合を増やした方がいい。 「夜メニューは別に用意したらいいかも。慣れないうちは、メニューは少なくていいと思うよ」 「はい」 「昼間のメニューにも、少量でもアルコール使ってるものは、表示をしておいた方がいいね。体質的に受け付けない人もいるから」 「あ、そうですね!」  なぎはメモを取りながら頷いた。  ユウは白ワインのボトルのラベルを見比べ、片方を手にした。 「この白ワイン、ボトルごと使っちゃってもいいかな?」 「はい、構いませんが、それ、安いワインですけど……」 「ああ、全然問題ないよ。甘口の方が合うから。この中に茶葉を入れて半日かけて抽出すると、ほんのり茶葉の香りがして、後口も爽やかになる『ティーワイン』が出来るよ。茶葉は、ダージリンのファーストフラッシュとかが合うかな」  リゼの目がワクワクときらめいた。 「今から漬ければ、今日の夜にはお出し出来ますね!」  やる気満々なリゼを見て、なぎも少しワクワクとしてきた。 「飲みやすいワインとかウィスキーを選んでおくのもいいね」 「はい。ただ、わたし、お酒のことはあんまりよくわからなくて。ウィスキーも苦手だし」  ユウは頷いた。 「この近くに、女性バーテンダーのいるバーがあるよ。そこで味見させてもらったらどうかな? 今日、僕休みだから、お店閉店したら一緒に行ってみる?」 「えっ……」  なぎの表情が強張《こわば》ったのを見たユウは、笑って言い直した。 「もちろん、彼らも一緒に」

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