グリム家の朝

 朝。  小鳥たちの囀り。  カーテンから木漏れ日のような光が漏れている。  「兄さん、兄さん、起きてください」  ベルトは揺さぶられて目を覚ました。  彼をを起こしたのはベルトの妹だった。  「おはよう……えっと?」  「……ノエルです。朝食の準備が出来ました」    少女はそれだけ言うと、ベルトの部屋を後にした。  彼女の名前はノエル。ノエル・グリム。間違いなく血の繋がったベルトの妹だ。  だが、ベルトには彼女が妹という実感がない。油断をしていると名前を失念してしまうほどだ。  なぜなら、ベルトが家を飛び出して暗殺者ギルドに所属したのが20年前。  ノエルが生まれたのは、その後になる。  つまり、ベルトは実家に帰るまで妹の存在を知らなかったのだ。  加えてノエルは、まだ10代。親子でもおかしくない年齢差。  「実家に戻って1ヶ月か……まだ慣れないもんだな」  さらに言えば、ノエルは離れた町の学校に通うために寮に住んでいる。実家に戻るのは週末だけ。  そのため、ベルトとノエルは兄妹でありながら顔をあわせたのは、まだ数度程度。  まだまだ2人が他人行儀なのは誰も責められないだろう。  「はぁ、まだ眠いな」と呟きながらベットが起き上がる。  そのまま、ベルトは欠伸を噛み締めながら、1階へ向う。  大きめのテーブルに朝食が並んでいる。  そして椅子には、ベルトの父親とノエル――――もう1人。  なぜか、マリア・フランチャイズが優雅に朝食を口に運んでいた。   「随分とお寝坊さんね。せっかく、ノエルが作ってくれたスープが冷めてしまうわよ?」  「……なんで、当然のように朝から俺の家でメシ食ってるんだ?」  「あら? 貴方が商売をしたいからと言うから私が投資してあげたのよ? 貴方は家族よりも私を優先すべきじゃないかしら?」  「いや、その理屈はおかしいだろ」  「まぁまぁ」と2人を止めたのはベルトの父親だった。  「マリアさんのおかげで、お前は働けるんだ。感謝しないといけないよ」  「……わかったよ、父さん」とベルト。  「共に朝食を頂ける許可をありがとうございました」とマリア。  「ハッハッハッ、感謝などいりませんよ。こんなにも美しいお嬢さんが愚息を慕ってくれるは父親としてはうれしいものなのです。もしも、貴族の家柄でなければ嫁にでも来てもらいたいほど……」  「あら、それは本気にしてもいいものなのかしら?」  ベルトの父親は、マリアから鋭い視線を送られ冷や汗をかいている。  もしかしたらギロチンを連想したのかもしれない。  (――――コイツ、人の父親をなんて目で見てやがるんだ!)  ・・・  ・・・・・・  ・・・・・・・・・  「ノエル、美味しかったわ。また腕を上げたわね」  食事を済ませたマリアは労いの言葉をかけた。  「いえ、ありがとうございます。お姉さま」とノエルは顔を赤く染めていた。  「お姉さま?」とベルトは疑問符を浮かべた。  それに、どうして自分よりもマリアの方が妹と距離感が近いのか?  疑問は尽きなかったが、そこには触れない方が良いと判断して、ベルトは食事を続ける。  しかし――――  「何をしてるの? ついて来なさい」と慣れた様子で客間に向う。  「やれやれ」とベルトは肩をすくめて食事を後回しにした。  「それで、本当は何の用件だ? まさか、本当に朝食を食べたかったわけじゃないだろ?」  「あら? 私が貴方と一緒に朝食を共にしたいと願うはおかしな事かしら?」とマリアはクスクスと笑う。  「……」  「な、何か言いなさいよ。もちろん冗談よ。冗談! べ、別に朝から貴方と一緒にいたかったわけじゃなのよ!」  マリアは貴族として大人びた風雅な振る舞いをしているが、時折、それが崩れて年相当の少女としての顔が出てくる。ベルトは、そこが愛らしいと思うが、それを口にする事はない。  言えば、調子に乗る様子が簡単に想像できるからだ。  「全く、ここからは重要な仕事の話です。 ここ最近、貴方の評判がよくありませんよ」  「評判が悪い? 俺が?」  ベルトには、全く心当たりがない話だった。

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